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斎藤 史の短歌


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 朝日新聞9月18日付の「折々のうた」(大岡 信)から。

つねに何処かに火の匂いするこの
星に水打つごときこほろぎの声

             斎藤 史

 『風翩翻以後』(短歌新聞社、2003)所収。「女流歌人の最高峰」として、「批判精神の鮮明さにおいても、作品は常に華麗な後光に包まれていた」歌人の最晩年の歌。この歌には「地球を哀悼する如き深沈たる哀歌の趣がある」と。亡くなったのは2002年だけれど、まさに同時代の歌。

 一方では昭和へのこういう歌もある。

昭和の事件も視終へましたと
彼の世にて申し上げたき人ひとりある

 こういうふうに別れを何に対しても見事に歌いきった人の詩心について、今なにが言えよう。ぼくの乏しい語彙では立ちすくむばかり。

 和英対訳詩集『記憶の茂み』(三輪書店、2002)から一篇。

〈コワレモノ注意〉と書ける包み持ち
膝病むわれが傾き歩く


Holding in my arms
the package written "Fragile −
handle with care", I
suffering from a bad knee
walk with my body slanted.

この英訳は見事。もちろん、元の史の短歌は、自己戯画化しながらも哀切極まりない。