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アイヌ語に表れたアイヌの考え方


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知里真志保「学問ある蛙の話」

 

 著者の知里真志保(1909-1961)はアイヌ民族出身の言語学者。『アイヌ神謡集』を編纂した知里幸恵の弟。

 アイヌ語に表れたアイヌの考え方を、例をあげ、分かりやすく、するどく述べる。アイヌ語の「ホロカ」(後へ戻る、の意)がつく地名の話から始める。

 たとえば渡島国松前郡のホロカナイは永田方正『北海道蝦夷語地名解』(第四版)が却流川の意と解く。同じ渡島国の茅部郡のホリカペッの場合は逆流川の意と解く。水が後戻りする(却流、逆流)と解したわけだが、著者はこれに異を唱える。水が後戻りするのでなく、人が後戻りするのである、これは実は川の流れがN字形に回流している地形をさすのであると。

 水が後戻りすると解く場合には、満潮で川の水が逆流するなどの理屈を持出さざるを得なくなる。これに対し、著者によれば、これらの川のN字形の地形の上下の角の部分は丸みを帯びている。人がN字にそって後戻りするのであるというわけである。

 このような川について理解するにアイヌの考え方を知る必要がある。アイヌは川をどう捉えているのだろうか。著者はこう書く。

我々の考え方では、川は山から発して海に入るものであるが、アイヌは、それとは全く反対に、海から入って山へ行くものと考えている。地名のオマンペッ(山奥へ行く川)シノマンペッ(ずうっと山奥へ行く川)リコマンペッ(高く登って行く川)などはそういう考え方を示している。また我々が川の出発点と考えて「水源」「みなもと」と名づけているものを、アイヌは川の帰着点と考えてペテトクすなわち「川の行く先」あるいはペッキタイ「川の頭のてっぺん」と名づけている。

こう考えてはじめてホロカという語の意味が生きてくるという。

 このほかに、鮭を凍らして生で食べるルイペ(ルイベ)についての記述も興味深い。著者によれば、<アイヌ語ルは「とける」イペは「魚」であるから、アイヌ語の心理に即して云えば「凍魚」ではなく「融魚」なのである>と。つまり、凍らせた魚というより、口の中に入れるととけてしまうところに、アイヌは着目すると。<アイヌはそれを「とける魚」と考えている>というわけである。短い文章だけど、何度読んでも含蓄がある。

 

学問ある蛙の話
 

 

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