池澤夏樹『眠る女』(impala e-books, 2014)[電子書籍版]
夫の赴任先の米国とおぼしき家。夫をおくりだした妻は突然の眠りにおそわれる。
その眠りは離陸ではあるけれど、空へではなく、海の底へ向かうような旅であった。
向かう先は島。島の中で自分は白い衣をまとって踊っている。なんのために。不明のまま、おどること、歌に耳をかたむけることが、至上の幸福感をもたらす。
この眠りの旅を三日間つづけた主婦はいったい、どんな存在になるのか。
時空をこえた旅、沖縄とおぼしき習俗の神秘。
かすかにノロの記憶。沖縄のことばでうたわれる時間が、まるで現実のことのように読者にも迫ってくる。
そう、ここにはふしぎな現実感があるのだ。でも、これは今の現実ではないということも、同じくらい確かな現実感がある。
なんといえばいいのだろう。この文体の流れるような雰囲気は。
これを読んで、はじめて池澤夏樹という人が少し理解できたような気がする。
短い作品だけれど、印象に深く残る。
島の伝承に関心が深まり、文学で可能となる時空の神秘に思いをいたす。
〔本書を評者は Yondemill 版で読んだが、多くの電子書店で入手可能。書店の一覧は次のところにある。
http://www.impala.jp/e-books/nemuruonna.html 〕
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