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All about Harriet (少女探偵フレーヴィア・シリーズ第六弾)


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Alan Bradley, The Dead in Their Vaulted Arches: A Flavia de Luce Novel (Delacorte P, 2014)



 前作(『春にはすべての謎が解ける』)の最後の一行から本作は始まる。

 始まるその日に早くも殺人事件がおこる。それもフレーヴィア(主人公の少女探偵)の目の前で。もっと奇っ怪なことに、殺される人は、その寸前にフレーヴィアだけに、ある伝言をしていた。さらにもっと奇っ怪なことに、その後、そんな事件などなかったかのように、予定された行事が粛々と進行される。

 いったい、どうなっているのか、と読者は思わざるを得ないが、話はどんどんその行事の細部に入ってゆく。一方で、先週から、フレーヴィアは、忘れられたある過去を化学的に蘇らせる実験をしていた。打ち捨てられた映写機に残るフィルムを現像するのである。そこに映っていた映像は、いま進行中の行事とどんな関係があるのか。

 殺人事件の日に、フレーヴィアは、もう一人の人物から不思議なことを言われる。それは、こんな言葉だ。

"And have you, also, acquired a taste for pheasant sandwiches, young lady?"

 この "pheasant sandwiches" は実は映写機の中のフィルムでも重要な場面で出てきていた。それを思い出したフレーヴィアの毛は逆立つ。だが、いったい、この言葉はどういう意味なのか。それよりなにより、この言葉をフレーヴィアに語ったのは、前首相ウィンストン・チャーチルその人であったのである。

 という具合に、初めから謎は謎をよぶ。とまらない面白さである。だが、最大の謎は十年前にチベットの山中で消息を絶った母ハリエットのことである。失踪時、フレーヴィアは一歳だったので、記憶はない。この謎解きは、フレーヴィアのルーツを探る謎解きでもある。

 おまけ。チャーチルの「お嬢さんも雉子サンドがお好きですかな?」を不審に思われた向きは、騙されたと思って "WWII pheasant sandwiches" で検索していただきたい。

 もうひとつおまけ。フレーヴィアに実験室と詳細な実験記録を残した叔父は、なんと、アルバート・セント=ジェルジにアドバイスを与えていた! 小説の中とはいえ、これには本当におどろいた。〔ノーベル生理学医学賞をうけたハンガリーの生理学者セント=ジェルジ・アルベルト博士については松岡圭祐万能鑑定士Qの事件簿 II』にも出てくる。〕

 本書に関して 読者からの質問に著者が答えるページ がある。
http://news.nationalpost.com/arts/books/the-afterword-reading-society-the-dead-in-their-vaulted-arches-by-alan-bradley
本書はほぼすべてハリエットの謎に収斂するけれども、そのハリエットの話は本シリーズの第一巻から念頭にあったのかとの質問には、第一巻の第一章からハリエットの話の結末は分かっていたと答えている。その秘密を漏らさないようにするのは大変だったとも。