松岡圭祐『特等添乗員αの難事件 V:5』(KADOKAWA/角川書店、2014)
特等添乗員シリーズ第5作は車の窃盗事件から意外な展開になる。
主人公の添乗員、浅倉絢奈は新居を探すため、婚約者の壱条那沖といっしょに神奈川県川崎市に出かける。そこで、近所の駐車場の連続高級車窃盗事件のことを知る。絢奈の水平思考の頭は早速回転しはじめ、一発で犯人をつかまえる。
ところが、この事件には意外な背景があった。バックに暴力団ネットワークがあったのだ。ぬすんだ車はロシアに売り飛ばし、組織の重要な資金源となっていたのだ。
暴力団のほうでは、絢奈の正体に首をひねる。添乗員に化けた警察官かと疑う。が、そうではなかった。絢奈の思考は詐欺師に似通い、常識の裏をかく発想法が共通しているために、犯行にすばやく気づくのだということが分かってくる。痛快といっていいのか、誉めるべき特徴なのか、よく分からないが。
ところが、事態はそこから、さらにややこしくなる。暴力団をたばねる総元締めの馬鹿息子が絢奈にご執心なのだ。絢奈に対し罠が仕掛けられる。シンジケートの天敵のようにみなされていながらその一味に取込まれようとする絢奈の運命やいかに。
という単純な展開であるはずもなく、事件はさらに、ひねりにひねりをくわえ、知能合戦の様相を呈するが、それをことごとく見破っていく絢奈の活躍は胸がすく。
今回のひねりはひと味ちがう。絢奈の内面の苦悩がえがかれるのである。ひととはちがう思考法をとるせいで、職場で孤立してしまう。それを乗越えるために絢奈が発した言葉は「難題! 難題ない?」だった。難題がゆくてをふさぐとき、絢奈は生き生きしはじめる。
無理難題こそ、生きる糧。なんとすばらしい生き方だ。進達、ここにあり。元気がでてくる。