アイルランド語歌を英訳でうたう
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Brian O'Rourke, Blas Meala: A Sip from the Honeypot (1985; Irish Academic P, 1987)
本書を買ったのはこれで2冊目になる。ペーパーで飽き足らずハードカバーも入手した。ところが、思わぬ余禄があり著者の署名以外に録音参加歌手全員の署名もあった(下の写真参照)。
ブライアン(ブリーアン)・オルーク(オローク、オルーアルク) Brian O'Rourke, Brian Ó Ruairc が著した、アイルランド語伝統歌を英訳でうたおうという趣旨の二冊のうちの一冊目(1985)。アイルランド語歌に関心がある人の間ではよく知られた本である。
伝統歌を12曲取上げそれぞれについて二種の英訳を提供し歌の背景や伝承その他も解説する。二種の英訳は一つは語学的に忠実なもの、いま一つはそのまま歌えるものである。
つまり、同じエアに乗せて英語のシャン・ノース歌唱が実現するよう工夫された本である。英訳として頭で理解するだけでなく歌として理解してもらおうとの試みである。それも、アイルランド語を殆ど解しない人に。
本に準拠した歌を、錚々たる歌い手が唄った録音がカセット・テープに収録されている。歌い手はアイルランド語と英語との両方でうたう。
収録歌は次の通り。アイルランド語の原題、英訳題名の順。括弧内は歌い手。
- Cuaichín Ghleann Néifin = The Little Cuckoo of Glen Nephin (Máirtín [Tom Sheáinín] Mac Donncha)
- Máirín de Barra (Eibhlín Ní Churtáin)
- Mainistir na Buaille = Boyle (Seosamh Mac Donncha) [Josie Sheáin Jack]
- Amhrán Rinn Mhaoile = The Song of Renvyle (Treasa Bean Uí Chonghaile)
- An Goirtin Eornan = The Little Field of Barley (Seosamh Ó Flatharta)
- Tomás Bán Mac Aodhagáin = Fair Thomas Egan (Sorcha Bean Uí Chonfhaola) [Sarah Ghriallais]
- Amhrán Mhuighinse = The Song of Muighinis (Sorcha Bean Uí Chonfhaola) [Sarah Ghriallais]
- Cití na gCumann = Kitty My Dear (Seosamh Ó Flatharta)
- Liam Ó Raghallaigh = Liam O'Reilly (Treasa Bean Uí Chonghaile)
- Tá na Páipéir dhá Saighneáil = The Papers Are Being Signed (Máirín Bean Uí Chéidigh)
- A Spailpín a Rún = My Darling Labouring-boy (Eibhlín Ní Churtáin)
- Caisleán Uí Néill = Castle O'Neill (Máirtín [Tom Sheáinín] Mac Donncha)
いづれも、有名な歌ばかりだ。これらはしばしば大歌(amhrán mór)と呼ばれ、難曲としても知られる。年に一回開かれる、全アイルランドで最高のシャン・ノース(無伴奏アイルランド語歌唱)の歌い手を選ぶ大会では、これらが唄われることも多い。
この大会(オリアダ杯)を観に来る観客はほぼ全員がこれらの歌を熟知しており、したがって、歌い手のほうは一字一句ゆるがせにできない。審査員は三人いるが、聴衆(千人くらい)もほぼ同レベルの知識を有する。
歌詞を間違えたと判れば、どんな名人でもその場で唄うのをやめる。クラシックのコンサートよりも場の緊張度はたぶん高い。その緊張が3~4時間つづき、あとでどっと疲れるが、聴いている最中はあまりの芸術度の高さに我を忘れるほど没入する。
これがアイルランド語話者共同体が伝統詩歌に対して共有する文化的遺産なのだが、残念ながらアイルランド語を解しない人にとっては敷居が高い。それを少しでも和らげ、英語話者にも近づきやすくしようとする試みが本書である。その意図は高く評価されている。