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アイルランド語の辞書(紙媒体篇)


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忘れないうちに紙媒体のアイルランド語の辞書についても書いておこう。「紙媒体」は以前は「冊子体」とも云った。

ある辞書が使えるかどうかは、その序文が読みこなせるかどうかだと、よく云われるが、もう一つ重要な前提がある。文法が完全に頭に入っているかどうかだ。完全に入っていない場合は、電子篇で挙げた活用表附きの辞書を使うのが最善。

というのも、辞書を引く場面を考えてみると、単語が原形で出ていることはむしろ稀で、たいてい活用した形だ。従って、なぜその形になってるのかが理解できなければ、そもそも辞書は引けない。

ところが、問題になるのがアイルランド語の文法規則だ。規則の数が英語の7倍あると云われるくらいで、しかも、標準語がなく、方言ごとに活用が違うことが多いので、ターゲットの素性をよく調べてからでないと文法的分析もできない。

実際上、一番難しいのが名詞の活用を見分けることで、次に難しいのが動詞の活用。ただ、動詞の場合は、活用表を手許に用意しておけば、わりと簡単に判別できる。辞書に附属の表でもいいし、単独の冊子、例えば Briathra na Gaeilge (Folens, n.d.)などを使ってもいい。

名詞の場合は属格の弱変化と強変化について知っておくのがよいけれど、一般のアイルランド語独習書(Learning Irish など)には書いてない。ならば、文法書となるけれど、大概はややこしい書き方がしてある。弱変化の場合だけ書いておくと、

  1. 主格複数形を作るときに語尾が狭子音になるタイプ(bád → báid など)は、属格複数形が主格単数形と同一である(どちらも bád)。〔属格単数形が狭子音になるものはこれ〕
  2. 主格複数形を作るときに語尾に -a を加えるタイプ(fuinneog → fuinneoga など)は、属格複数形が主格単数形と同一である(どちらも fuinneog)。

これ以外は強変化である。つまり、主格複数形と属格複数形は同一である。

以上の前提を置いた上で、紙媒体で備えるべきは電子篇で名前を挙げた Ó Dónaill 編の FGB (Foclóir Gaeilge-Béarla, 1977)である。これしか標準はない。少し古いアイルランド語に接する必要があれば、Dinneen 神父の Foclóir Gaedhilge agus Béarla, an Irish-English Dictionary (Irish Text Society, 1927)は重宝する。文法的な説明というより、用例に見るべきものが多く、読んで面白い。

これ以外に、学習者向けの辞書がいろいろある。近年に出たものでは、Collins Irish School Dictionary (2011)や Collins Easy Learning Irish Dictionary (2009) が中々いい。後者は語彙が絞ってあり、用例も分かりやすいものしか挙げてない。

ざっとこんなところだけど、以上の現状で満足してるかというと、そうではなく、できれば英語の Longman Pronunciation Dictionary のような詳細な発音辞典がほしい。また、FGB よりもっと大規模な最新の辞書がぜひほしい。本当に詳細に書けば、方言の数だけ必要なので、同程度の英語辞書の3倍の大きさにはなると思うが、それは仕方ない。