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Kindle用のアイルランド語辞書


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Collins Dictionaries, Collins Gem Irish to English (One Way) Dictionary [Kindle版]



 Kindle用のおそらく初のアイルランド語ー英語辞書。辞書本体の内容は紙冊体の Collins Irish Dictionary (近年のPocket などを含む)と同様である。

 結論から言えば、Kindleアイルランド語の書籍を読む人は文句なしに買いだ。競合するものにCollins Pocket Irish DictionaryのKindle版があり、附録と価格に違いがある(Pocketの方は値段が倍)。辞書本体の内容は同じと思われる。

 気をつけないといけないのは、アイルランド語の書籍を読んでいるその場でこの辞書を既定の辞書としてポップアップさせて引くためには、Kindleの第2世代以降の機種でないといけない。具体的には次の機種と説明にある。

ここには書いていないが、Kindle Voyage でも問題なく動作する。iOS 版のKindleでは辞書を単体として使うか、引くたびに辞書を指定してやれば使える。なお、上記の機種ではもちろん辞書を単体として使うことは可能。Kindle Fireでは辞書を単体として使うことのみ可能。

 本辞書の最大の特徴はアイルランド語の実際に使われる形(種々の文法的変化、活用の形)でも(ほぼ)問題なく辞書の見出し語にたどり着くことだ。つまり、気になる単語を長押ししてハイライトさせるとすぐに語義や用例が出てくる。

 これはどういう仕組みでやっているのだろう。英辞郎Kindle版のように活用形をすべてリスト化しているのか、それとも文法的規則をアルゴリズム化しているのか。もちろん、後者の方がエレガントだが、実際には大変な作業となるだろう。なにしろ、アイルランド語の文法規則は英語のそれの7倍あるといわれており、語末だけでなく語頭も語中も変化する。

 そういうプログラマだけが知る苦労はさておき、読者としてはこんな辞書は大変ありがたい。もし、この辞書で不足であれば、FGB(アイルランド語の標準辞書)のオンライン版などを使えばよい。

 附録は軟音化と暗音化、文法、フレーズファインダ。文法は各種の活用表(前置詞的代名詞、形容詞、名詞、動詞)がまとめてある。残念ながら各種の数を表す表は附いていない(アマゾンでの商品説明には時間、月日、数に関する情報があると記載されているが)。フレーズファインダは基本会話表現を場面ごとにまとめたもの。挨拶、乗り物、スポーツ、音楽、買い物、電話、インターネット、薬局、病院など。

 なお、同じ辞書内容を収めた iOS 用のアプリケーションもあり、それは単独で使うには便利だが、もし読む本がほとんどKindleのみという人には絶対にこちらの方が使いやすい。Kindleの最大の利点は辞書と検索と可搬性にあるので、アイルランド語書籍についても辞書が登場したことは大変ありがたい。

 今のところ、たった一つ欠点がある。というより、Kindleの仕様が原因と思うけれど。章の頭の語が検索できない(ことがある)。頭の字が大きい字体になっていて、その後の文字とは別の属性におそらく扱われているため、そこが一語として認識されないのだ。これを回避するには別の語(例えば次の語)で取敢えず辞書を引いてから辞書本体を開き、あらためて冒頭の語(句)を引けばよい。面倒だけど、現状、これしか方法がない。

 実際にこの辞書で引くとどうなるのか、具体例を一つ。次の文。

I gCinn Mhara a bhíos nuair a chuireas aithne ar m’asal beag dubh i dtosach.

(初めて私の小さな黒いロバを知ったのはキンヴァラでのことだった。)

 ポーリク・オコナレ (Pádraic Ó Conaire) の短編小説「私の小さな黒いロバ」 'M’asal Beag Dubh' の書出しである。i は in に当たる前置詞。次に来る単語の語頭を暗音化する。Cinn Mhara はアイルランド西部ゴールウェー県の海辺の村キンヴァラ。この地名の後ろの要素 Mhara の意味を知りたくなったとする。その語の上に指をのせて長押しする。すると、すぐに本辞書の画面がポップアップし、見出し語 muir 「海」の項が表示される。すなわち、この語の原形は muir なのである。その属格が mara という形であることが分かる(ここではさらに軟音化し mhara となっている)。

 という風に、この文を読むためにある程度は助けになる。それは確かである。だけど、例えばその後の bhíos について知りたいと思ってこの辞書をいくら引いても出てこない(bhíos は bí 「ある」の過去1人称単数形だけど、この辞書や普通の辞書には出ていない)。それどころか、この文の基本構造を支える、文頭のコピュラ(繋辞)が省略されていることも、辞書だけではまったく分からない。

 つまり、この辞書が助けになるのは、そういう基本的語彙の部分までであって、文法知識に基づいて読み解かねばならない部分は辞書では普通はカバーしきれない。いくら巻末の活用表を見ても無理である。しかし、語彙だけでもずいぶん助けになる。



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