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アイルランド伝統歌の隠れた名著


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Sean Boyle, Irish Song Tradition (O'Brien P, 1976)



 アイルランドは膨大な伝統歌を有するが、その全体像について、一般読者むけにコンパクトにまとめた好著。

 二部にわかれ、前半でアイルランド伝統歌の起源と特徴を概説し、後半でアイルランド伝統歌の実例(アイルランド語、英語)を25篇あげて、楽譜と歌詞と解説をのせる。楽曲の旋法、詩の韻律についてもおさえる。

 記述は大変よみやすいが、学問的水準はまったく落としていないどころか、ときにきわめて鋭く、他書にはない貴重な内容もある。

 1976年の刊行だが、その後も、知る限りでは類書は皆無である。著者ショーン・オボイル(Seán O Boyle)はアイルランド伝統歌の収集家として著名な Carl Hardebeck の研究協力者でもある。なお、著者の名前の綴りの真ん中の O には不思議なことに長音記号(fada)が附いていない。

 アイルランド伝統歌の起源に関しては、12世紀から説き起こしているが、その音楽伝統を断絶しかねない重要な戒厳令が1603年にイングランドにより発布されている。エリザベス女王じきじきに「見つけしだいハープ奏者を絞首刑に処せ」('to hang the harpers wherever found')と命じた。発布後、十日以内に「あらゆる詩人、ハープ奏者を根絶せよ」との、悪夢のような命令であった。

 これほどまでイングランドが「歌人」の力を恐れたのは、なぜであるか。答えの一端は本書においても、さぐることができる。また、ジグやリールの詩的起源について考えるヒントも得られる。

〔残念ながら、古書として以外には入手困難かもしれない。〕


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