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近未来の地下経済を疾走する若者と移民の物語の序章


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藤井太洋『UNDERGROUND MARKET ヒステリアン・ケース』(朝日新聞出版、2013 [Kindle版]

 

 2018年の東京が舞台。消費税は15%。仮想通貨(N円)による決済で消費税を回避する地下経済の動き。その周辺に群がるフリービー(脱税者)や移民。非合法経済の実務の場面がスピーディに展開する。至近未来の東京の姿としてはかなりリアルに感じられる。先に書評した『UNDER GROUND MARKET』に続く、シリーズ第二作。

  木谷巧と鎌田大樹は<ヒステリア・ウィドウ>というアパレル店に、そのウェブサイトを仮想通貨対応にする設計を売込む。サイトのデザインがなってないというコメントを当のサイトのコーディングをしたエンジニアの森谷恵に聞かれてしまい、蹴りをくらう。


 その恵にコーディングを頼もうとするが、支払いのために間にはいってもらった斎藤に話をぶちこわされてしまう。恵もやはりフリービーなのに、表の経済にも関わる斎藤は感覚が合わないのだ。このあたりの微妙なセンスのずれは行間からにじんできて、実に愉快。

 納入したシステムのトラブルを巧と鎌田は回避できるのか。恵はどう関わるのか。舞台こそ地下経済だが、その中での公正と信義を貫こうとする若者たちの姿が胸をうつ。みずからの能力を信じ、仲間と助け合いながら疾走する。このスピード感がたまらない。多少の校正漏れが散見するが、ともかくめちゃくちゃおもしろい。

 このシリーズの第三作が『UNDERGROUND MARKET アービトレーター (Kindle 連載)』として連載された。