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「えんがちょっ」と'jinx'


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アレン・カーズワイル『レオンと魔法の人形遣い・上下』(大島 豊訳、東京創元社、2006)

 

 これ、話の性質上、詳しくやるとネタばれになってしまう。そこでそれは諦め、ここでは、この読み出したら止められない痛快ファンタジー小説の最終章の謎についてメモしておく。それは、最終試験後に主人公レオンら三人組が発する「えんがちょっ」の語だ(200頁)。

 ん? なんだ、これは。語義不明ゆえ調べてみると、諸説あるが、穢れが移されるのを遮断する呪文のようだ。語源は「因果の性」とか。千が釜爺に云われた言葉でもある。

 原文はどんな語(句)か。子供が使いそうな言葉とすると、"Shit!" か、それとも "Good riddance." か。これでこの学年の勉強とはおさらば、縁切ったの意識かと想像する。作品の舞台は現代のマンハッタンだけど、不思議に中世的感覚がある。

 「千と千尋の神隠し」の英語版では "gross" と "Gross out" を使っている(参考資料 [pdf])。

 原語は "jinx" だと訳者の大島さんが ブログ で書かれている。やはり、「えんがちょ」というのは東京方面の言葉のようだ。民俗学的に各地のえんがちょ関連の話題を集める 「えんがちょ」情報局 にいろんな例あり。大阪では対応するのは「べべんじょ」だとあちこちに書いてあり、語源は「びびんちょ」だとも。さらに、「びびんちょ」は「ピンショ」(=一升)の意で、〈舟に乗り、米一升で売淫行為をする過激な遊女が江戸時代大坂で流行し、性病に悩まされたことが発端である〉と牧村 史陽編『大阪ことば辞典』(講談社、2004)にありと、データベース・ことば編 で指摘されている。

 ここから、連想はさらに古代ユダヤの贖罪のヤギ(scapegoat)や漢字「義」に向かうと面白かろう。