朝日新聞10月7日付の「折々のうた」(大岡 信)から。
薬罐だつて、
空を飛ばないとはかぎらない。
入沢 康夫
『春の散歩』(1982)所収の「未確認飛行物体」という十六行の詩の冒頭二行。毎夜こっそり台所をぬけ出す、水がいっぱい入った空飛ぶ薬罐(やかん)は、最後には「砂漠の真ん中に一輪咲いた大好きな淋しい白い花に水をみんなやって戻ってくる」。
一見、人を食った詩にも見えるが、読む側の詩想をかきたてるアレゴリカルな詩だ。現代人はこのような薬罐になりたいとのひそかな願望を抱いているのではないだろうか。
あまり目につかないかもしれないけれど、こういうふうに句読点を打つ現代詩がぼくは好きだ。