フスリツァ「カウントダウン」を読む
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【データ】21世紀東欧のSFを集めた『時間はだれも待ってくれない』(東京創元社、2011)のスロヴァキアから採られたのがシチュファン・フスリツァ(1974-2008)の「カウントダウン」である(Stefan Huslica, 'Odpo c itavanie', 2003)。訳・木村英明
一種の思考実験だ。そうだけれども、近い未来にこういうことがあり得そうな気がする。その意味で、編者が「IFもの」と表現するのもわかる。作品はこう始まる。
世界の終わりは日曜日の正午に始まった。
大げさな、と一瞬思うが、これがヨーロッパ十数か所の原発に対する攻撃を伝えるニュース番組に発することだと知れば、いや待てよ本当かもしれないと思ってしまう。攻撃を仕掛けた正体不明の兵士たちがマニフェストを発表する。〈人権を尊重しない権威主義的国家との協力関係を途絶するように、武力行使に訴えて、ブリュッセル政府を動かそう〉とするものらしい。マニフェストの文言に〈我々は、中国共産党体制に対して民主主義のための戦争を布告するように要求する〉とある。もしEUとその同盟国がこれを拒絶するならば
七日後の正午、ドイツ、スペイン、フランス、ブルガリア、スイス、ベルギー、イタリア、スウェーデン、スロヴェニア、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーにおいて占拠した原子力発電所の原子炉が、空中に吹き飛ばされることとなるだろう。さあ、カウントダウンが始まった!
という。彼らの作戦を中止させるためのあらゆる試みは失敗する。〈西洋型民主主義のために戦う史上初のテロリストに、その行為の不当性を納得させることはできなかった〉のだ。この事態にもかかわらず、〈ぼく〉とアリとトルディはモホウツェ原発からわずか数キロのアパートにいて避難もせず、変わらぬ日常生活を続ける。それだけの話だ。だが、この仲間たちの生き方にはどこか藤井太洋の仲間物のSF作品(『アンダーグラウンド・マーケット』など)を想わせるすがすがしさがある。