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地球は人類の揺り籠だが、我々が永遠に揺り籠に留まることは無いであろう


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藤井太洋『オービタル・クラウド』(早川書房、2014)



「ロケット工学の父」ツィオルコフスキーの上の言葉を思わず引用したくなる。実際、本書でもツィオルコフスキーが1897年に発表した「ツィオルコフスキーの公式」(ロケット推進に関する公式)が再三出てくる。登場人物の中にはこの公式を腕に入墨した男すらいる。

 物語は地球を回る低軌道物体の異状から始まる。その異状にアマチュア観測家と米軍とがほぼ同時に気づく。常識ではあり得ない事態が起こっているのだ。

 イランが打ち上げたロケットの二段目が、つまり、あとは軌道が低くなって行くだけのロケットの残骸が、軌道高度を上げている。事実とすれば、とてつもない異常である。誰しもが、単純なデータのミスと考える。

 ここから、事態の真相をめぐって、各国の専門の宇宙機関よりもアマチュアの若者のほうが、鋭い洞察を神業的に迅速におこなう。痛快きわまりない。

 藤井太洋の読者は、ここに来て、ブラインドフォールドされても彼のスタイルが分る地点にまで到達したのではないか。もう完全に「藤井太洋節」が確立している。欧米流のテクノ・スリラーとは違う、藤井太洋流の近未来SF。暴力的暗黒勢力が常に登場するが、それをいとも簡単にすり抜けてゆく「自転車的」感性と身軽さ。ハードSFのファンも唸らされるほどの技術的興味をかきたてつつ、物語の面白さで引っ張ってゆく。その未来には何より「希望」がある。

 ひとつだけ注文がある。(特に英文の)校正者をちゃんとつけてほしい。英文そのものや、英語の読み(「ラウンチ」など)の誤りが頻出するので、これほど面白くなければ投げ出す人が出てくるだろう。


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