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真夜中の夢の底に向かって坂を下っていくように、岩戸へ向かう泉水子


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荻原規子『RDG3 レッドデータガール 夏休みの過ごしかた』(角川文庫、2010)

 

 RDG第3巻。夏休みを迎え生徒会の合宿を真響(まゆら)の実家のある長野県戸隠で行うことになる。忍者の里であり、天の岩戸が飛ばされてきた地でもある。ここで主人公泉水子(いずみこ)が直面する真響きょうだいの秘密とは。

 作者による前作の梗概はこうなっている。

承前)自分と『姫神』を取り巻く特殊な事情に向き合うために、鈴原泉水子は生まれ育った玉倉神社を出て、新設間もない全寮制の鳳城学園に入学した。一足先に編入していた相楽深行は相変わらず素っ気なかったが、寮で同室の宗田真響や、その弟真夏と親しくなり、徐々に学園生活にも慣れていく。真響は実は三つ子で、もう一人の弟真澄は幼い頃に亡くなっていた。しかし、泉水子自身ある留学生の正体を見抜いたことから、生徒会会長選を巡る真響と同級生高柳一条との戦いに、巻き込まれてしまう。

 第2巻の続編かと思いきや、まったく語り口が変わる。ディベート的な場面が多く、対立的な言論の応酬が続く。

 半ばを過ぎた辺りで急にアクションが起き、そのスピードの変化に驚かされる。

 つまり、確かに荻原規子は希代のストーリーテラーなのだが、スタイルは一色ではなく、自在に変えられるのだ。どこまで凄いのかと思う。

 そのスタイルが加速して以降の後半で展開する、戸隠の地名のもとになった岩戸への冒険行は「別の層」への旅であり、空気感が完全に変化する。岩戸に達したときは「ここは天に届く山の頂ではなく、逆方向に突き抜けた現実の底だ」と語られる。

 このあたりの息がつまりそうな異界のくだりや、夜の夢の中に出現する真澄との場面など、本巻には重苦しい雰囲気がただよう。

 一方、鳳城学園に集められたのは、世界でも「絶滅危惧種」となった「神に接する能力」を持った者を、世界遺産として認定するための候補者集団であることが判ってくる。しかし、多くの者の正体は依然として不明のままである。

 日本古代の神話空間に旅したかと思えば、今日の世界における対神霊能力の問題も浮かびあがり、物語はますますにぶい光を放ちつつ進む。