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環境問題を高校レベルの数学で定量的に理解する


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J. ハート『環境問題の数理科学入門』(丸善出版、2010/2012)



 欧米で好評のテキストを邦訳したと、帯にある。原著は John Harte, Consider a Spherical Cow: A Course in Environmental Problem Solving (University Science Books, 1988)。原題の「球形の牛」とは簡略化したモデルのこと。現実に周りで起こる環境の問題を理解するために、数理的なモデルを作る手法を解説した教科書。自分の手で計算することで環境への定量的理解がぐっと深まる。

 例題を見てみよう。難しそうと臆する必要はない。「高校レベルの数学でも、きちんと用いさえすれば、複雑な状況を解明するのに大いに役立つ」と著者がいうのだから。とはいえ、数式は見るのも嫌という人には向いてない。

 全体として、ある問題に対して数理モデルを立てて計算してみて、現実の値とずれがあればモデルの細部を修正してゆくという手順がさまざまの具体例について考察されている。

 最初にウォーミングアップとして簡単な例が7つ挙げられる。たとえば、「私たちが食べる野菜」という問題がある。「地球上の植物の年間成長量全体のうち、人間が食べた割合は、1983年にはどれだけだったでしょうか」という問いだ。まず、推測をし、その値を書きとめる。あとで計算結果と比較するためだ。

 計算式を作るにあたり、単位(重量とエネルギー)をそろえたり、各項の意味をはっきりさせたりする。重量とエネルギーの変換式や炭素含有量の割合などを用いて計算すると、最終結果は 0.6% となる。意外に少ない。

 ウォーミングアップが終わると、やや複雑だが興味深い例がいろいろ出てくる。「牛乳1リットルによってどれだけの高さまで登れるでしょうか」(本書のモデルだと 700m)とか、「微量物質の生物濃縮はどのようにして起こるのでしょうか」(食物連鎖の各段階における微量物質の濃度を与える公式を導く)など。

 本書の性格からして決して読みやすい本ではない。1ページに数式が3から5ほど出てくるからだ。数式の意味を考えて、納得して初めて実際に計算に移れる。紙と鉛筆を使いながらの読書となる。それもまた、愉しからずや。