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ガル・コスタ+カエターノ・ヴェローゾ(Gal Costa & Caetano): ドミンゴ(Domingo)


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傑作という言葉ですら軽々しくは使いたくない

 1967年。ガル・コスタ22歳の録音。カエターノ・ヴェローゾは25歳。

 二人にとって初のLP。ガルのソロ・アルバムは1969年に出ることになる。

 音楽史的にはボサノヴァ最後の一枚。

 この国内盤紙ジャケットアルバムは DSD マスタリングという SACD 用の 2.8MHz のサンプリングを施したものを AD コンヴァータで CD に落としてある。

 これをかけた途端に空気が変わるのは事実だ。そういうディスクは、近年入手した盤の中ではノルウェーのグループ Vintermåne のアルバム以来、久しぶり。一種の「魔法の瞬間」を捉えたディスクとは言えるだろう、最低でも。

 淡々とした短いディスクながら、音楽的には恐ろしいほど深い。そして、この上なく美しい。傑作という言葉ですら軽々しくは使いたくないほど。

〈痛みなくして〉は胸を締めつけられるくらい美しい

 わずか31分ほどの盤だけど、A 面6曲と B 面6曲とはわけて考えたほうがいい。面が変わるときに明らかに雰囲気が変わるから。CD は切れ目なく続くから用心しないと。

 特に A 面最後(CD でいうトラック6)のカエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジル作の 〈Nenhuma Dor〉 (痛みなくして)でのガル・コスタの歌は胸を締めつけられるくらい美しい。その後はしばらく余韻を味わってから次のトラックに移ったほうがいいような気がする。LP だと盤をひっくり返すだけの時間はとれたのだけど。

 この歌の冒頭の "Minha namorada tem segredos" (私のガールフレンドには秘密がある)の "segredos" (秘密)と次行の "brinquedos" (おもちゃ)の韻の響きに、翌年以降、「ブラジルのディラン」と呼ばれるほどの存在になってゆくカエターノの歌作りの才の一端が感じ取れる。何とおもしろい韻だろう。歌のこの冒頭部分で、はやくもこれが類稀な歌であることが直感できる。ここでのギターの伴奏もカエターノなのだろう。素晴らしい。