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起源に関する Quinn 説(5)


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 クィン説をめぐって昨年はじめアイルランドの雑誌 JMI で議論が沸騰したが、それについて私が書いた文章(2003年前半に執筆)を再録。

正統論争


 なにがシャン・ノース歌唱の本流であるかという議論はながく続いていた。が、それが一般の耳目を集めるような舞台に踊り出ることはめったになかった。

 聞く側にとっては、シャン・ノースの正統の歌唱法がなにかということは直接の関心事にはなりにくいが、歌う側にとってはこれは死活問題である。自分たちのステータスがかかっているのだ。自分としてはこれがシャン・ノース歌唱だと信じて歌っても、それは本物のシャン・ノース歌唱じゃないよと言われれば、存在意義そのものにかかわる。

 ながくその問題はある権威(エラハタス[・ナ・ゲールゲ])のもとに封印されていた。その権威の認定する価値が君臨することによって、異論は事実上封じ込められてきたのである。ところが、近年、その状況にじょじょに風穴があいてきた。それが一般の目に触れるところで噴き出したのが2003年初頭のことであった。

 それは JMI 誌でおこった(2003年3/4月号)。その号のタイトルはずばり「シャン・ノース論争」(debating sean-nos)というもので、読者を驚かせた。これがなぜ一般の耳目を集めることになったのかというと、英語で議論されたからである。エラハタスの通用語はアイルランド語なので、エラハタスの認めるシャン・ノースの問題はこれまでアイルランド語話者の間でしか話題になることはなかった。それが一般音楽誌上で英語で語られたことで、問題が一挙に顕在化したのである。論点は主として、これまでエラハタスの認める至上の価値であった西部コナマラ流の歌唱と、北部ドネゴール流の歌唱伝統を擁護する主張との対立である。

 論争は起こったものの、いまだに決着は見ていない。この問題のゆくえは今後のエラハタスの展開を見守るしかないだろう。

 固有名詞を挙げていないので、上の文章を読むだけでは実感が湧かないと思う。

 この論争はつぎの論者が主に戦っている。

  • 西部コナマラ流の歌唱 ← Bob Quinn が支持
  • 北部ドネゴール流の歌唱 ← Lillis Ó Laoire が支持

(つづく)