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コルシカのポリフォニー合唱の映像化


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I Muvrini, Terra (ブロードウェイ BWD-1271, 2003)

 

 コルシカのグループ、イ・ムヴリーニを中心にコルシカの伝統的な言語や文化、ポリフォニー(コルシカ語で pulifunie)について描き出した1996年のフランス映画を DVD 化したもの。日本製。白黒全56分。

 監督は「ガッジョ・ディーロ」や「ラッチョ・ドローム」のトニー・ガトリフ。1996年のアムステルダム国際映画祭黄金部門賞を受賞している秀作で、コルシカの言葉や音楽に関心のある人は見て損はない。

 そもそも、コルシカのポリフォニー合唱が映像化され、それが日本で手に入ることじたいが稀有なことなので、興味があれば入手できるうちにに入手しておくことをお奨めする。

 収められているポリフォニーの質は最高レベルのものである。なお、世界各地(グルジアブルガリア、イタリア、南アフリカポリネシアなど)にポリフォニーは聞かれるが、そのなかでコルシカのそれは最高峰であると言われている。心を静めてこの歌声に耳を傾ければ、聴き手を深いところで動かす力に満ちている。

 言語はフランス語とコルシカ語で、日本語字幕をつけることが選択できるが、必ずしも全部訳されているわけではない。たとえば、車の中でベルナルディーニが語る場面で、「コルシカではコルシカ語でミサをあげること(célébrer la messe)は反体制(subversif)と見なされた」と述べているが、ミサの部分が省略されて反体制という部分のみが字幕に出るので、文脈が分かりづらい。しかし、概して字幕は助けになる。コルシカ語を使うだけでフランス政府当局から反国家活動と見なされてきた苦難の歴史の一端が垣間見える。

 字幕のことよりも、映像を目を凝らして見、聞こえてくる音に耳を澄ませることのほうがはるかに大事だ。よく見ていると、たとえ声を発する人の姿が映像には映らなくても、映っている映像が何かを物語っていることが多い。

 たとえば、山の離れたところどうしで声を届かせて会話する人々、ベルナルディーニ兄弟が「テラ」という歌をうたうとまるでそれに反応するかのように川へと落ちていく石ころ、最後の歌の場面で歌声が天にまで届くかのように映像が構成されていること等々。

 もっとも感動的な場面は、カフェ・コルシカという店に村の人々が集い、思い思いの時間を過ごしている場面だ。カード遊びに興じる人々、会話を楽しむ人々などが映し出されるが、ときどき、だれか一人が即興的な歌詞で歌いだす。すると、驚いたことに、べつの人がそれに対し即興的な歌詞で応答するのだ。さらにイ・ムヴリーニのメンバーがポリフォニーを歌いだす。この間の歌がたとえようもなくすばらしい。歌が本当の意味で人々のなかに生きているということを実感するときである。

 

 参加アーティスト―― I Muvrini

 

 評価―― ★★★★

*1

 

 白黒ながら、印象は鮮烈。カラーよりも、かえって想像力を喚起する効果や映像に集中させる力があるかもしれない。

I Muvrini, 'Terra'

www.youtube.com

 

*1:評価は五つ星を最高とする尺度によっており、星の数による意味は、「 良い点をさがすのが困難」 「★★ かなり良い」 「★★★ 第一級(年間ベスト・アルバム・クラス)」 「★★★★ 群を抜いてすばらしい、すごい、数年に一枚出るか出ないかのクラス」 「★★★★★ 大傑作、不朽の名盤、その分野の古典と呼ばれるに値する」です。つまり、通常、「最高」と呼ばれるようなものは三つ星です。