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バスクからの宝物


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Olatz Zugasti. bulun bulunka (Elkarlanean KD-532, 1999)

 

 バスクから10年に一度くらい届けられる宝物といえばいいか。前作の一枚目が1991年作だそうだ。

 ジャケットには Olatz Zugasti と女の子が写っており、付属冊子の中やジャケット裏にも二人の写真がある。おそらく娘さんなのだろう。Olatz Zugasti は1965年生まれという。

 基本的には Olatz Zugasti のハープ弾き語り。このハープはケルティック・ハープらしい。それにときおりほかの楽器がごくひかえめに加わる。それだけだ。
 この声を暗いというむきもあるが、決していつもそうであるとは思えない。むしろ、方向は明るいと感じる。この明るさは人間存在そのものから立ちのぼるような明るさで、だから当然ときには暗さをふくむこともある。だけれど、彼女の目は明るい方向に向けられていると、バスク語は分らないながら、感じる。
 それは、この娘やさらに子どもたち一般の存在があるからではないかと、ふと思う。未来に伝えられていくいのちの輝きといえばいいか。いのちの継承こそは、どんなに暗い状況にあっても人間の希望の光だ。
 息子をあやしながら、政治的理由で投獄されたため不在の父親のことを歌う母親の歌もある。それは1960年代初頭に作られた歌で、あるいは 1961 年以降、武装闘争をしているエタ(ETA 「祖国バスクと自由」という、バスクの完全独立を要求する過激派)にからむ話か。

 

 収録曲――

  1. Haurra egizu lotto lotto
  2. Aztanen portalean
  3. Haurra egizu lo ta lo
  4. Haurtxo haurtxoa
  5. Haurrak, logale dalako
  6. Gure haur honen
  7. Lo hadi aingürüa
  8. Kuluxkan
  9. Amaren xango
  10. Bulun bulun
  11. Abenduaren hogeian
  12. Atzo goizean
  13. Abu nina, Katalina eta iluna denerako
  14. Haurrak ederrak

 

 主な参加アーティスト――

  • Olatz Zugasti (vo, harp)
  • Anjel Unzu (mandolinak, perkusioak, bouzoukia)
  • Pello Ramirez (violoncelloa eta akordeoia)
  • Maddi Oihenart (vo)

 

 評価―― ★★★

*1

 

 ベスト・トラックは 'Atzo goizean'.


Atzo goizean, Olatz Zugasti (Bulun bulunka, 1999 ...


 基本的にはバスクやナヴァールの伝統歌や子守唄が多いようだが、なかに旋律を Benito Lertxundi が書いたものや上記の政治がらみの歌もある。さらにペルーから養子にむかえた男の子のために Olatz Zugasti が書いた子守唄もある。
 なお、Olatz と Benito がデュエットをする曲が Benito のアルバム Gaueko Ele Ixilen Baladak (1985) に収められているらしい。その他、Benito の数枚のアルバムに Olatz は参加している。
 トラック7 'Lo hadi aingürüa' を歌っているのは Maddi Oihenart で、一聴の価値あり。この女性歌手については、ベニート・レルチュンディが「スベロア [フランス側バスク] は歌にあふれていた。(中略)[食事の準備をする女たちは] だれかに聴かせるためではなく、まったく自分たちのために歌っているのだ。その声は、たとえようもないほど神聖な響きをかもしだしていた。そういえば、ペイオ・セルビエルのアルバム《Euskadi Kanta Lur (歌の大地、バスク)》のなかでア・カペラで歌っているマディ・オイエナールの歌にも同じような響きがある。彼女の神秘的な"間"のとり方は生来のものだろうか。」と語っている(『カタルーニャバスク、コルシカ 魂のうたを追いかけて』植野和子著、音楽之友社、2002、169-170頁)。 

 なお、植野さんによるオラツ・ズガスティのインタヴューが「ラティーナ」2002年8月号にあり。必見。

 

*1:評価は五つ星を最高とする尺度によっており、星の数による意味は、「 良い点をさがすのが困難」 「★★ かなり良い」 「★★★ 第一級(年間ベスト・アルバム・クラス)」 「★★★★ 群を抜いてすばらしい、すごい、数年に一枚出るか出ないかのクラス」 「★★★★★ 大傑作、不朽の名盤、その分野の古典と呼ばれるに値する」です。つまり、通常、「最高」と呼ばれるようなものは三つ星です。