Cristina Branco, Post-Scriptum (L'Empreinte Digitale, 2000)
ファドの清冽なる歌姫クリスティーナ・ブランコのこのレーベルからの2枚目。1枚目と共にフランスで賞をとっている。ほかにオランダでしか入手できないアルバムが2枚あるようだ。
夫である Custódio Castelo のハイ・ストラング・ポーチュギーズ・ギターのリリシズムにクリスティーナの哀愁をおびた歌が重なる。Alexandre Silva のほうはスパニッシュ・ギターを弾いているらしい。
かけたとたんに、その場にポルトガルの風が吹くように感じられ、完全にクリスティーナの世界に入ってしまう。これがどれほど稀な女性ヴォーカルのアルバムかは聞かないと信じてもらえないだろう。
収録曲――
- Ai Vida
- Manto De Açucenas
- Post-Scriptum
- Toada em Realejo
- Palavras Proibidas
- Abalara
- Não Oiças A Minha Voz
- Sem Abrir Caminhos
- Prelúdio
- Aspiração
- Primavera
- Lisboa De Paixões
- Ausente
参加アーティスト――
- Cristina Branco (vo)
- Custódio Castelo (Portuguese g)
- Alexandre Silva (viola, g),
- Fernando Maia (bass)
- Guests: Jorge Fernando (viola, g, b), Miguel Cavalhinho (viola, g, b), João Paulo (p)
評価―― ★★★★
ベスト・トラックは 'Post-Scriptum'。
クリスティーナのファドは、ファドでありながら、ボサ・ノヴァやジャズに通じるかろみを備えており、感覚的に非常に新鮮である。
官能的といえば官能的だが、その官能性が聴き手の頭のてっぺんあたりに共鳴するので、すこーんと抜けるのである。この抜けかたは、歌い手に十分抑制が効いているところから来るのだろう。
つまり、きわめて技術的、表現的に高度な抑制をかけて感覚を声に封じ込めているのが、聴き手の中に入ったとたんに、解き放たれて空中にスパークルするような感じなのだ。
言換えれば、芳醇な甘みを含んだシャンパンが頭の中で栓を抜かれる感じといえばいいか。このような声の持ち主がライヴで一声うたえば会場を虜にするのは無理もない。
Cristina Branco, "Post Scriptum" - YouTube
*1:評価は五つ星を最高とする尺度によっており、星の数による意味は、「★ 良い点をさがすのが困難」 「★★ かなり良い」 「★★★ 第一級(年間ベスト・アルバム・クラス)」 「★★★★ 群を抜いてすばらしい、すごい、数年に一枚出るか出ないかのクラス」 「★★★★★ 大傑作、不朽の名盤、その分野の古典と呼ばれるに値する」です。つまり、通常、「最高」と呼ばれるようなものは三つ星です。