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Quinn 説への O Laoire の反論(5)


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 クィン(Bob Quinn)が攻撃したオ・リーレ(Lillis Ó Laoire)の議論を振返っている。アイルランドの雑誌 JMI の2003年1/2月号に掲載された議論の続き。

 クィンが至高の価値をおくコナマラのシャン・ノース歌唱の核心は装飾音(ornamentation)である。これこそ、コナマラとドネゴールとを分ける最大のポイントだ。

 オ・リーレは伝統的な聴衆は旋律と装飾音とを分けて聞かず一体化して聞いていたと指摘する(太字は私)。

It is well known that traditional audiences did not, in the past, think in terms of base melody and ornamentation as two separate entities, but rather that they viewed performances holistically for their efficacy.

 これに対してはクィンも反論していない。ただし、この論点は証明することが困難だろう。それに、上の文は 'for their efficacy' という表現を付加えていることで逆に弱くなっている。つまり、演唱は全体として効果を上げるという自明のことを言っているに過ぎなくなるからだ。そうでなく、歌の旋律と装飾音とは一体のものとして意識されており、ここがベースでここがオーナメンテーションだという分析的な聞き方はしてこなかったと指摘すべきところだろう。しかし、そうも言えない。なぜかというと、基本のメロディはだれでも知っている。人と違う歌い方は装飾音にこそ出るので、歌い手の違いを意識すれば自然と意識はそこに行くであろうと考えられるからだ。

 けれども、そういう意識は競技会から生じたものだとオ・リーレは述べている。ドネゴールの人々は歌い手の違いはどこで意識するのか。声の質か、テンポか、音域か。(この項おわり)