Skylark: All of It
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スカイラークの1989年のアルバム。
Skylark: 《All of It》 (Wundertüte CD TÜT 72.139, 1989)
スカイラークのアルバム群の中でもこれは親しみやすく、また特別なものを感じさせるアルバムである。全体はいつものスカイラークで、アルスター(アイルランド北部)の音楽伝統をしっかりふまえ、幅広くレパートリーを渉猟し、堅実で温かみのある演奏を繰広げる。その水準はつねに高い。
ここで特別なものを感じさせるのは、珍しいことに Eithne Ní Uallacháin がバッキング・ヴォーカルで参加しているからである。Eithne はレンの妻 Pádraigín Ní Uallacháin の姉妹で、Gerry O'Connor (スカイラークのメンバーでもある)と共に Lá Lugh のメンバーであったが、惜しくも1999年に他界した。その Eithne と Len Graham とが歌うトラック5 <Siúil a Rún> は胸を打つ。
もうひとつ、トラック3 <The Tryst> という歌がスカイラークのレパートリーとしては毛色の違いを感じさせる。レンが情感豊かに歌うこの歌は、スコットランド文芸復興期の詩人 William Soutar (1898-1943) の詩に Pádraigín Ní Uallacháin が曲をつけたものである。つまり、ある意味でスカイラークの存在意義を凝縮したような曲になっている。彼らは、アイルランドとスコットランドの文化的交流のなかから生まれてきた音楽伝統を生きた伝統として現代の聴衆に届けようとしているからである。Pádraigín はソロ歌手としてつねにそのような意識で埋もれた曲の発掘をつづけているが、すこし違った形で夫君のひきいるスカイラークも同様の活動をしていた。
なお、本盤はアイルランドの Claddagh 盤が原盤のはずで、それは今でも入手できる。上に書いたのはドイツ盤の番号である。かつては、米 Green Linnet 盤もあったがもう廃盤(在庫はまだどこかにあるかもしれない)。スカイラークはアルスターの音楽伝統を考えるうえではきわめて重要なグループであるが、アルバムが現在では入手しにくいのが難点。彼らの 《Light and Shade》 については、以前、本欄で触れたことがある。
曲目データがネット上では簡単には手に入らないようなので、曲目リストを下に書いておく。
ついでに、本盤での参加ミュージシャンのリストも書いておく。
- Len Graham (vocals)
- Garry O Briain (guitar, mandocello, keyboards)
- Gerry O'Connor (fiddle, vocals)
with
- Eithne Ní Uallacháin (backing vocals, fl, whistle)
- Eilish O'Connor (fiddle)
- Máirtín O'Connor (accordion)
つまり、マーティン・オコナーは本盤ではまだゲスト扱い(のちにスカイラークに正式に加わる)。なお、本盤をプロデュースしたのは P. J. Curtis。