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人の考えた事柄は必ず短く要約できる


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谷沢永一『400字で読み解く明快人間史』(海竜社、2004)

 

 厳しい書評を書くことで知られた谷沢永一(1929-2011)が先賢の思想から日本人に役立つと考えた智恵のみを絞りだした書。

 「人の考えた事柄は必ず短く要約できる」との見当にもとづき、こう語る。

虚構(フィクション)としての文芸作品は、その表現は圧縮できないけれど、論述としての思想論理では、たいていの果実がそうであるように、真中の種子が分厚い肉にかこまれている。奥に潜んでいるこの核心、その中枢に狙いをつけて、抜きとり引きだす作業は可能であろう。(2頁)

 ただし、案内ではなく、縮約でもなく、「ただ一筋に、判定」であることを目指す。みずからのことばで一刀両断する気構えで、思想に相対する。それは誰かの受売りではなく、まったく谷沢自身のことばである。したがって、読むひとによって賛否が分かれることはもとより覚悟のうえである。

 評者の心に残る箇所を一つだけ引用する(36頁)。歴史に対する東西の二賢人への言及である。まず、フランス。

歴史に対して、ポール・ヴァレリーは懐疑的であった。「実際、碩学が図書館で追究するあのおびただしい枝葉末節への興味は、私には理解を越えたものだった。〈どうだっていいではないか〉と私はひとりで呟いたものである。〈たった一度しか起こらないことなどは?〉」(『覚書と余談』1919年)。非常に透徹した問題意識のみが、現代に示唆する過去の重大な特殊の一環を見出すであろう。

つづいて、日本は江戸期大坂の思想史家。

富永仲基は、資料そのものから疑ってかかった。「言に人有り」、言い伝えや論述する説は、それを述べる人の気質によって異なる。「言に世あり」、時代によって立場が違う。表現の様式も、種々多様である。要するに、昔の事実を極めるのは不可能だ、とそう見切りをつけて、これを原則とした。東西ふたりの見解はぴたりと合致している。

 

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