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リリス・オリーレの代表作


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Lillis Ó Laoire, Bláth Gach Géag dá dTig (CIC, CICD 075)

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 今日、ドネゴールのシャン・ノースの男性歌手として、リリス・オ・リーレの右に出る者はいない。彼の代表作がこのアルバムである。

 ドネゴールのシャン・ノース男性歌手で彼を聞かないとすれば、一体だれを聞けばよいか。途方にくれてしまう。少なくとも現在活躍しているドネゴールの男性の歌い手は、彼以外にはごく少ない。名前を挙げるなら、ブリアン・オ・ドーナルやドミニク・マク・ギラ・ヴリージェがいる。

 よい歌い手は同時によい研究家でもある。先人の歌をよく研究している者でなければ、よい歌はうたえない。シャン・ノース歌手がよく言うことは、最も古いヴァージョンを歌う人を聴け、あるいは、最も古い録音を聴け、これである。出発点を確認する必要があるからだ。そのためにはアーカイヴに赴く必要もあるだろう。原点を確認したうえで、それを自分のものにしてゆく。そこで自然に変化が生れてくる。

 リリスの歌のベースはおそらくトーリー島の歌の研究にある。それ以外に、アイルランドの主要三ゲールタハトの歌の流儀もおそらく熟知している。

 研究するといっても、ことは口承の歌に関わるから、やりかたは通常の研究とはよほど違う。先人の歌やうたいかたを敬意をもって学ぶことに始まる。ひたすら耳を傾けねばならない。そうやっているうちに、おなじ歌でも微妙な節回しの違いや、おなじ言葉でも強調の置きかたの違いに気づくようになる。歌を覚えていないと、こういう違いには気づかない。つまり、違いが分かるようになる過程で、必然的に多くの歌を聴き、多くの歌を覚えることになる。覚えれば覚えるほど、歌が大家族の一人一人のように思えてくる。たがいに、どこか似ているところが見つかることが多いからだ。

 残念ながら版元で絶版。