Tigh Mhíchíl

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batrail あるいはシャン・ノース・ダンスのこと


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 最近ちらっと書いたダンスの話の続き。
 柄にもなく、ダンスのステップが気になっている。
 それも、コナマラのダンスだと知ってよけいに。
 シャン・ノース・ダンスの競技会がエラハタスで近年は行われていて、その番組をあるご好意で見る機会があった。先日も触れたが、競技名はエラハタスの公式ウェブサイトでは "Rince Aonair ar an Sean-Nós" (古式によるソロのダンス)と書いてある。
 ところで、このステップ・ダンスについての研究で知られるのが、Helen Brennan-Corcoran という人で、山下さんの本によるとクランのショーン・コーコランの奥さんらしい。この人の本についても先日少し触れた。
 ヘレンさんの記述に、1970年代以前にはこのダンス・スタイルは 「ア・ワトラール」 'an bhatráil' (the battering) と呼ばれていたとある。「バトラール」 'batráil' という動詞(「乱打する」の意)の動名詞(女性名詞) 「バトラール」 'batráil' (動詞と同形)に定冠詞を附けたものだろう。これが先の名称に変わったということは、いろいろ考えさせられる。コナマラのシャン・ノース歌唱の特徴とある意味で関係があるのは疑いがない。歌唱のほうが厳格な分だけ、その特徴は受継ぎつつ自由に解放したという雰囲気がある。フラメンコとの類似性を指摘する向きもある。ボブ・クィン仮説*1 がちょっと想起される。
 なーんか、アパラチアのクロッグ・ダンスを想わせるくらい、自由で陽気で楽しそうだなあ。ふだん着みたいな人もいるし、手の振りといい、顔の表情といい、踊る人の人間性そのものが出るダンスだ。コスチュームを着けた、ダンス・スクールの訓練された「公式の」個性滅却型ダンス・スタイルとは対極にある。このシャン・ノース・ダンスが来春、日本でも見られるということだから、今からワクワクしている。

*1:本ブログで詳しく取上げています。「クィン」か 'Quinn' で検索してみてください。