Tigh Mhíchíl

詩 音楽 アイルランド

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Around the Hills of Clare

     

 新譜情報。アイルランドはクレア県の歌や朗誦を156分収めた二枚組が Musical Traditions から発売された(アイルランド以外)。アイルランドでは、有名なシンガーズ・クラブ、ダブリンのア・ゴーリーンが販売する。

  • Around the Hills of Clare (MTCD331-2 / Góilín 005-6)

 Jim Carroll と Pat Mackenzie が 1973-2004 年に録音した西クレアの歌い手たち(Tom Lenihan, Nora Cleary, Straighty Flanagan, Ollie Conway, Martin Howley など)が収められている。全47トラック。44頁の冊子附き。価格は16ポンド。詳細は こちら

ダンスは喧嘩なるらし

Dancing is like fighting.

 若かりし頃のことをこう振返るダラ・オ・コニーラ*1 の言葉は最初なんのことか分からなかった。
 この言葉はアイルランドにおけるソロ・ダンスの伝統を物語るものとしてヘレン・ブレナンが引用しているものである。ヘレンさんはシャン・ノース・ダンス研究の権威だが、つまり、この言葉は、同ダンスに密かに籠められた競争心や矜持を物の見事に捉えているというわけなのだ。
 一見するとバタリングの嵐にも見えるこのダンスは、ヘレンさんによると、我こそはヴィルトゥオーゾなりとの意識で踊られ、見る者を驚嘆せしめることを、傍観者の尊敬を勝ちえることをその目的とするものの由。
 そんなシャン・ノース・ダンスの当代の若手名人ショーサヴ(ジョー)・オ・ニャハタン(ニャクタン)が日本にやってくるという信じがたい告知を クラン・コラ・ブログ (12月2日付)に見つけた。ポール・オショネシー&ハリー・ブラドリー来日公演に同行するとのことである。

 蛇足。私がなぜヘレンさんの本を読んでいるかというと、シャン・ノース・ダンスはコナマラのダンスであり、コナマラの歌唱伝統とはつながりがあるからである。

*1:作家。アラン島の歌姫 ラーサリーナ・ニ・ホニーラ の父

加藤楸邨の句

遊ぶなり月夜の蟻のひとつぶと

 大岡信さんの「折々のうた」(朝日新聞12月2日付)で「相手と自分の距離感と一体感のとり方がみごと」とのコメント附きで引用されていた。「蟻のひとつぶ」という部分が一度読んだら忘れられない。なぜこの句でこの蟻が意識の深いところに残るのか考えていたら、「遊ぶなり」が 'ari' の音を含んで共鳴していることに気がついた。つまり、自分はある意味で蟻と一体化しているのである。さらに、「つぶ」と「月」と頭韻を成す語の円いもの同士の照応が、えもいわれぬスケール感を醸しだしている。不思議な句だ。

麦まき

 産経新聞11月29日朝刊の「朝の詩(うた)」掲載の塚本幹雄さん(87、大阪府東大阪市)の詩は忘れかけていたものを呼びさますような響きがある。

麦まき


お父が耕(かえ)し
お母が塊(くれ)打ち
子が種子をまき
親子三人麦まきすまし
やっとすんだと
見上げる空に
あすも天気か
夕日が赤い

 きっと、冒頭のは「おとう」「おかあ」と読むのだろう。アイルランドシャン・ノースの歌い手がたとえば本業の漁業の一日の終わりに抱く感懐もこれに似たものがあるかもしれない。