Jenna Cumming, Kintulavig (Macmeanmna SKYECD 36, 2005)
Jenna Cumming (Jenna Chuimeanach) の声を耳にした人は忘れ得ない。これほど明澄なスコットランド・ゲール語は他では望み得ないと、Morag MacDonald (Mire ri Mòir, BBC Radio nan Gàidheal]) は述べる。むべなるかな。かくも純粋で透き通るような歌声を聴くのも、そうあることではない。
間違いなく、このデビュー・アルバムのタイトルはトラック 12 から採られている。その歌の内容を知る者からすれば、この語を聞いただけで胸が締めつけられるだろう。
ヘブリディーズ諸島(Innse Gall)に行ったこともなければ、その地の歌の伝承も知らぬ身が想像だけで書く。
この地名は Kintuliveg とも綴る。元のスコットランド・ゲール語の綴りは Ceann Tulabhaig。アウターヘブリディーズ諸島(ウェスタンアイルズ)のハリス島(Isle of Harris, Na Hearadh; ハリスは古期ノルド語で「高地」の意)の Leverburgh の地名。歌詞の言葉('Cnoc Cheann Tulabhaig')からすると、ここは丘陵地である。
そのキントゥラヴィクの丘に、私が死んだら埋めてくれと切々と訴える歌である。これは哀歌に似るが、アイルランドの高名な歌 'Amhrán Mhuighinse' などと同じく、それ自体が一つのジャンルを形成すると考えてよい。もし、結末も同じだとすれば、この歌を死の床で歌った人は、結局、故郷のその地には埋葬されなかったのだろう。
などと想像を逞しくしたが、そういう史実に基づく歌かどうかは判らない。何よりも、作者が問題である。作者は C. MacDonald/C. MacVicar と書いてある(ことによると、この二人は伝承の詩に曲を附けただけかもしれぬ)。これは誰か。
前者は謝辞にある Ciorstaidh MacDonald か。後者は、同じくスコットランド・ゲール語の歌い手である母親の Chrissie MacVicar だろう。え、とすると、まだ亡くなっていない可能性が高い。だとすると‥‥?
この二人(のどちらか)のゆかりの地がハリス島なのか。18-19世紀の移民の波に乗り、苦しくなった島民はスコットランド南東部低地地方や新世界に出て行った。その種の出来事を指しているとすれば、(埋葬のための)帰郷は(おそらく)夢の中のみとなる。
それにしても、ここまで切に歌わせるハリス島の高地とはどんなものか。ヘブリディーズ諸島の観光サイト からの文章でも読んで想像することにする。
最後に残った疑問は、肝心のジェナ・カミングの出身地だ。実はインヴァネス生まれだ(スコットランド北西部 Highland 州の州都)。島嶼部ではなく、なんと都会だ。
ともあれ、この歌のジャンル、「臨終の床で郷里に埋葬を願う歌」はゲール世界(Gaeldom)にある程度普遍の型であることを想起しつつ。
Songs sung (on deathbed) wishing to be buried in one's homeland:
- Jenna Cumming, 'Cianalas na Hearadh' (Kintulavig, 2005)
- Sorcha Bean Uí Chonfhaola, 'Amhrán Mhuighinse' (Blas Meala, n.d.)
なお、本アルバムに関心がある人は Albumtrad で試聴できる。