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アラスカの氷河と墨流しの共通点とは


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中谷宇吉郎「アラスカの氷河」

 

 雪の博士として知られる中谷宇吉郎の紀行文。アラスカで見聞した氷河の美を綴った文章。

 中谷博士のことばで「雪は天から送られた手紙である」というのがある。世界で初めて人工雪を作るのに成功した科学者ということをたとえ知らなくとも、このことばに表れた詩情は万人の記憶に残る。

 博士は氷河の天工の美がいかに「世人の想像をはるかに絶するもの」であるかを語り、同時になかなか近づきにくい景観であることも綴る。もし、見られたとするならそれは「天恵」であるとも記す。

 中でも見ることが難しいのがマラスピーナ氷河の「線条の模様」だ。「末端に近いところへきて、急に幅が六十キロ以上にも拡がる」ため、「無数の線条は、うねうねと曲がって流れ」る。その興味深い特徴が「各線条が常にならんでいて、決して互いに交錯しない点」にあるという。

 そこには流体の粘性からくる物理学的な理由があるのであるが、面白いことに、「その形は、墨流しの模様に、そっくりである」。墨流しの線条が「互いに交錯することはない」のには違うメカニズムがあるのだが、ともあれ、両者は模様としては「同じ形をしている」。ここに面白さを感じる科学者の感性を読者もまた面白く思うのである。

 

中谷宇吉郎紀行集 アラスカの氷河 (岩波文庫)

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