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銀漢ヲ行ク彗星ハ――梨木香歩の「きみにならびて野にたてば」(連載第2回)について


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梨木香歩「きみにならびて野にたてば」(連載第2回)

 

 梨木香歩が「本の旅人」に連載した「きみにならびて野にたてば」の第2回(2012年11月号)について。

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承前宮沢賢治と保阪嘉内との友情に影響を受けた人々に起こったことを記録するための小説として書く。雑誌「UR.」(うる)のこと。そこに収められた林昇順の「葉緑素の思想――UR、童性」のこと。

 

「きみにならびて野にたてば」2-4連

 本小説の冒頭に引かれた賢治の詩「きみにならびて野にたてば」の第2連以下はふつうに知られている詩のテクスト(『文語詩稿 五十篇』)とは違うと連載第1回のところで述べた。梨木が引いているのは、実はこの詩の下書きを復元したものだ。「雨ニモマケズ手帳」(1931年~32年ころ使用されたらしい賢治の手帳。「雨ニモマケズ」が記入されていることで有名)にある。その第2連、(抹消された)第3連、第4連を引く。この形で梨木は引いている。

  峯の火口にたゞなびき
  北面に藍の影置ける
  雪のけぶりはひとひら
  火とも雲とも見ゆるなれ

  「さびしや風のさなかにも
  鳥はその巣を繕はんに
  ひとはつれなく瞳(まみ)澄みて
  山のみ見る」ときみは云ふ

  あゝさにあらずかの青く
  かゞやきわたし天にして
  まこと恋するひとびとの
  とはの園をば思へるを

 

保阪嘉内と宮沢賢治が登場

 さて、連載第2回はいよいよ保阪嘉内と宮沢賢治とが登場する。山梨県出身の嘉内と、岩手県出身の賢治とがいかに出会うか。大げさにいえば宇宙的交響詩のような出会いだ。

 ハレー彗星を観にいった十三歳の嘉内少年は彗星を観ることができなかったが、代わりに銀河を駆け抜ける夜行列車を夢想する。嘉内はその折に次のように記した。

  銀漢ヲ行ク彗星ハ
  夜行列車ノ様ニニテ
  遥カ虚空ニ消エニケリ

 嘉内はこの話をのちに、岩手山への途上で、二十一歳の賢治に聞かせる(嘉内も同じく二十一歳)。聞かされた賢治は「おお」と心を高ぶらせ、「大空を疾走する、その列車は、まことの国を目指しているのだな」と応じる。魂の交感が二人の間に起きた瞬間であった。

 

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