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アイルランドの数独とマガハン Sudoku in Eirinn agus McGahern


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〔蔵出し記事 20050916〕

 最近アイルランドで時間を過ごした人なら誰でも気づいているだろうが、あちらでは数独は大変な人気である。日本人自身が驚くほどの大人気である。

 アイルランドの新聞でその日の数独問題を掲載していないのはアイルランド語新聞だけである。英語の新聞には必ずといっていいほど載っている。それも、「モンスター数独」などの変り種も含めて多彩な問題が。私の感触では、伝統的なクロスワード・パズルを上回る人気があるように思えた。

 バスや鉄道の駅売店でも必ず数独本は置いてある。売店のおばちゃんに数独の本があるんだねと話しかけると、必ず、「ええ、私も好きなの」と嬉しそうな顔で答える。スーツを着た紳士から買い物に熱心な婦人まで、みな数独に夢中であるように見える。

 イースン (Eason) のような巨大書店でも数独は大きなスペースを占めている。さらには、数独のコンピュータ・ソフトまで売っている。

 一番驚いたのは、数字だけじゃなく、アルファベットまで動員した数独があることだ。複雑になればなるほど喜んで解いている姿が目に浮かぶ。

 こんなことを想いだしたのは、アイルランドのノンフィクション・ベストセラーのリストを眺めているときだった。〔2005年〕9月3日付のリストでは上位五位中、二冊が数独の本である。

  • Carol Vorderman's How to Do Sudoku (3位、9週連続ランク入り)
  • The 'Times' Su Doku:The Utterly Addictive Number-placing Puzzle 1 (4位、13週連続ランク入り)

 アイルランドでは会話に欠かせない話題は天気だと思っていたが、今回の滞在中は、話に詰まったら数独を持ち出して、大成功だった。

 もちろん、日本発のパズルであることはアイルランド人の誰もが知っていると思う。「と思う」と書いたのは、アイルランド語メディアに主に接している人たちは、ひょっとすると数独のことはあまり知らないかもしれない。米国人も知らない人が多かったが、やり方を説明すると、すぐに没頭していた。

 ここで、疑問が湧く。なぜ、アイルランドでかくも数独が人気があるのか。数を使うパズルなので普遍性があるということは分かるが、他にも数のパズルはある。どうして、特に数独なんだろう。

 私の仮説は「レベル設定」に人気の秘密があるのではないかというものである。日本の新聞などに数独が載る場合は一問だけだが、アイルランドの新聞では必ず三問は載る。初級、中級、上級用の問題である。この設定は、解く人に達成感を与えやすい。やさしいレベルからスタートして、だんだん難しい問題に挑戦してゆくことに、やりがいを感じるのではないか。実は私自身もそうである。中級や上級の問題が解けるとこの上なくうれしい。さらに、この上級にとどまらず、超難問も時々載る。

 原理そのものは単純きわまりないのに、非常に奥が深い。こういう種類のものにアイルランド人は熱を上げるのではないかと思う。ティン・ホィッスルだってそうだ。子供でも吹ける簡単なつくりの笛だけれど、名人の演奏はそれはそれは見事である。全アイルランド・チャンピオンシップが毎年真剣に争われていることを見ても、アイルランド人が本気であることが分かる。

 ひょっとすると、現代アイルランドで最高の小説家といわれるジョン・マガハン (John McGahern) の文体と数独とは通じるものがあるのではないか。私は7月に彼の朗読会に行ってきたが、その声と文体とにそのような魅力を感じた。その折に朗読された自伝的回想録はそろそろ刊行される頃だ。〔私が朗読を聞いた翌年の2006年に他界したマガハンの回想録 Memoir は2005年に刊行された。〕

 

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