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興味深い注が多いヨハネ黙示録


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保坂 高殿訳、小林 稔訳、小河 陽訳『新約聖書〈5〉パウロの名による書簡・公同書簡ヨハネの黙示録岩波書店、1996)



 岩波版の新約聖書第五分冊。本書の構成が大きく三つに分かれるが、最初の二つにすでに恣意的な分類名といって悪ければ解釈上の立場が打出されており言葉の意味すら不明である(「公同」とは何か訳者も分からぬと述べる)。ここでは論ずるに足るものとして三つめのみ取上げる。

 示唆に富む注が散見されるのですこし書抜く。聖書本文を太字で引き、それ(あるいはその一部分)に対する注を要約して記す。


ヨハネの黙示録小河陽訳)
4.6 玉座の前は、水晶のように透明な、ガラスの海のようなものがひろがっていた。
(注)「天上にも海がある」ことは典拠あり。


11.5 もし、誰かが彼ら(二人の証人)に害を加えようとするなら、彼らの口から火がほとばしり出て、彼らの敵どもを焼き尽くす。もし誰かが彼らに害を加えようとするなら、その者は必ずやそのような仕方で殺される。
(注)神的「必然」と呼ばれる用法。


12.6 そこには、千二百六十日の間人々がこの女を養うために、神によって準備されていた隠れ場があったのである。
(注)「養う」という三人称複数形で用いられた動詞の主語としては、おそらく「天使的存在」が考えられており、事実上、神意を意味する受動態表現と変わらない。
〔「神意を意味する受動態表現」はふつう、神的受動態という。「養う」のここでの形は τρέφωσιν (trephōsin) . KJV 'they should feed'; NAS 'she would be nourished'〕ふだんアイルランド語を読んでいる人間には、自立形(autonomous)に似ると見える。アイルランド語の自立形もまた能動態・受動態の二様に解し得る。

 周知の通りヨハネ黙示録に天使は重要な存在である。注の随所に天使や、その対極に位置する、天から投げ落とされた悪魔の天使たち(組織化された、邪悪な霊的存在)について、鋭い指摘がされる。

 ヨハネ黙示録が、時の終わりに現れる、新しい天と新しい地、新しいエルサレムを幻視したものである以上、いわば神的力学を精密に表す言語の解明は、難解にしてこの上ない感銘を与えるこの書の読解においてきわめて有益である。