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プラトーノフ『ジャン』


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 1934年、アンドレイ・プラトーノフ(1899-1951)が作家同盟により「中央アジアトルクメン共和国に作家団の一員として派遣され」る(安岡治子集英社刊『ロシア III』[1990]のプラトーノフ解説)。この取材旅行に刺激されて書いた中篇小説が『ジャン』だ。原題 Джан. 生前には発表されなかったとのことだが、安岡治子の「プラトーノフ年譜」によると、1938年に発表した短篇「故郷への帰還」は『ジャン』の断章という。


 読んだのは集英社ギャラリー〔世界の文学〕15『ロシア III』[1990]に収められた版(原卓也訳)。

 16章あるのだが、プラトーノフ二巻選集(1978)以降、「この結末の後に四章が付け加えられている。そこではチャガターエフがジャンを連れ戻し、彼の築いた共同体で幸福な暮らしが始まることになっている」という。「検閲を通すための(略)妥協案」らしいのだが、それでは恐らく読後感がかなり違うだろう。


 主人公の青年チャガターエフが、自らの出身民族である遊牧民族「ジャン」(原注に「トルクメンの民間信仰では幸福をさがし求める魂をいう」とある)を救済する命令を受け、汽車と伝馬船を乗りついで故郷に向う。党中央委員会から派遣された出張員として、労働者ソビエト(会議)をつくるところまでを目ざす。砂漠の過酷な生活の中でチャガターエフが体験するさまざまのことが描かれる。

 一言でいってすさまじい傑作である。プラトーノフの詩的天才がいかんなく発揮されている。文章そのものが詩的散文であり、これほどの作品は稀有である。プラトーノフがいかに非凡な作家であるかが分かる。

 アイルランドの軟泥と河を想起させる第4章を引く。

朝と夕方、河は生あるもののように流れる軟泥を透してさしこむ斜光のおかげで、金色の奔流と化した。


 同じ箇所が Joseph Barnes の英訳だと次のようになる。

In the mornings and the evenings the river was transformed into a torrent of gold, thanks to the light of the sun piercing the water through its living, never-drying silt.