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オコナー訳のメリマンはたのしい絵をそえて


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Brian Merriman,Frank O'Connor (trans.), The Midnight Court (O'Brien P, 1990)



 たのしい絵が詩にそえられている。

 が、たとえば、電車の中でこの本を広げるのはちょっと恥ずかしい。エロティックな絵が混じっているからだ。この独特の絵は Brian Bourke による。現代美術としてはすぐれたものだ。

 Frank O'Connor による英訳は20世紀半ばの生き生きした英語を反映する(初版は1945年)。原詩のアイルランド語を精密に訳したというよりは、原詩の迫力を英語で活写することに腐心したように見える。情熱にあふれているのである。

 詩人が草地で寝ころがっているとき、妖精法廷へと突然、呼び出される。これは原詩の中でも怖い場面のひとつなのだが、オコナー訳はとりわけ怖い。呼びたて役は大女の官吏で、身長はなんと6mに達する。見るだけで震えあがる。その官吏の申し渡しのさまはこんなふうに訳される。


And she cried in a voice with a brassy ring
'Get up out of this, you lazy thing!
That a man of your age can think 'tis fitting
To sleep in a ditch while the court is sitting!
An honester court than ever you knew
And far too good for the likes of you;
Justice and Mercy, hand in hand,
Sit in the courts of Fairyland.


 原詩と同じ1行4強勢で、カプレットを基本とした力強い詩行だ。研究目的でなく、純然たる愉しみのためにこの詩を読むなら、いちばんいい訳かもしれない。

 といっても、男性が読めば、女性陣になぜ早く結婚しないのだと厳しく糾弾される法廷のありさまは、悪夢になりそうなほど苛烈なのであるが。言うまでもなく、この詩は、結婚相手の男性が不足した18世紀のアイルランドの、最大の問題作のひとつである。

〔原詩のアイルランド語に対する精密な英訳と日本語訳が日本で『真夜中の法廷』の題で2014年に出版されています。〕