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高島俊男の痛快なことば談義 第2弾


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高島 俊男『お言葉ですが…―「それはさておき」の巻』(文藝春秋、1998)



 中国文学者の高島俊男校正者にうっかり直される例をいろいろ挙げている。「週刊文春」に連載された人気コラムだ。いづれも、おもしろい例なのだが、おもしろいとばかりも言っていられない。考えようによっては由々しきことともいえる。

 「附の字の不覚」(1996年6月13日)は、高島が「附設」と書いたのを校正者が「付設」と直してしまったこと、その校正刷りに目を通す便宜が得られなかったことを不覚と述べている。

 そもそも、「付」と「附」とはどうちがうか。

 高島によれば、まるでちがう。「付」は「手渡す」「あたえる」の意味。給付、交付、付与などの熟語がある。

 「附」は「主要なものにくっついている」の意味。つまり、「従属」「おまけ」。附録、附属、附随などの熟語がある。

 なるほど、両者はまるでちがう。「常用漢字表」(内閣告示第一号)をみても、その通りの使い分けが書いてある。

 では、なぜこんな混同が起きてしまったのか。一言でいえば新聞社の不思議な、というか勝手なふるまいのせいだ。そのあたりの経緯をくわしく書いてある。

 このほか、「音」と「表記」の混同からのとんでもない混乱についての「テーコクリッカイグンワ……」(1996年5月23日)も重要な問題をあつかう。「陸海軍」を勢いよく「リッカイグン」と言う人もあるし、おちついて「リクカイグン」と言う人もある。これは「音」だ。「音」にはゆれがある。人により、時によりちがいがある。しかし、表記は「りくかいぐん」でないと困るという話。「陸海軍」に「りっかいぐん」とふりがなを編集者につけられてはたまらないと、高島は考える。もっともなことだ。

 本書の題は文庫版では『お言葉ですが…〈2〉「週刊文春」の怪』(文春文庫)となっている。