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Immersion Reading で読む The Great Gatsby


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F. Scott Fitzgerald, The Great Gatsby [Kindle版]



 1920年代のアメリカ小説を代表する作品。その時代を Jazz Age と呼んだのも著者だ。

 第一次大戦後のけばけばしい上流社会に彗星のごとく現れた謎の男は本名の Gatz を少し変え Gatsby として登場する。彼は金持ちではあるものの、どこからその富を得ているかが不明である。

 彼が夜ごとに繰広げる豪奢な社交の宴の目的はただ一つ、かつての恋人、いまは人妻となった Daisy を取戻すことだ。

 ほとんど誰もそうは呼ばないが、DaisyDaisy Fay Buchanan といい、そのミドルネームは彼の名 Jay と押韻している。(彼の本当の名は James で、父親は彼を Jimmy と呼ぶ。)

 語り手である Nick Carraway と Jay GatsbyDaisy 観は一点で共通している。それは Daisy の声に対する感じ方だ。随所に表れる Daisy の声の詩的描写は、彼らがこの女性にどこかしら妖精(fay)のようなこの世のものならざるものを感じていることを表す。

 今回はこの作品を Immersion Reading という方法で読んだ。テクストとその朗読音声とを同期させて読む方法である。目で文章を追うのとも、耳で朗読を聴くのとも違い、両者を結合させた読み方である。その種のものはアプリケーションで実現された例はいくつかあったが、この Immersion Reading に対応したタイトルは今や2万点を超える。

 この読書体験の質を決めるのはテクストと朗読の組合せである。今回は本作品の原出版社である Scribner 版のテクストと、Chris Hendrie による朗読とを選び、Kindle Fire HD で読んだ。正確なテクストを得るのはなかなか難しく、全篇を通して安定した朗読を得るのも難しい。特にこの朗読はムラがあり、気があまり乗っていないと思われる第1〜3章や第7〜8章は作品への没入(immersion)が難しい。だが、第4〜6章および最終第9章の朗読はすばらしい。原文の文学的な、というか詩的な表現の箇所ではよく通俗的な読み間違えをして、がっかりさせられる。従って、総合評価は、テクスト5つ星、朗読3つ星で、平均して4つ星といったところ。