おや、この星に知的生命はいないはずでは
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Ursula K. Le Guin, 'Vaster than Empires and More Slow'
〔書影は本篇を収める The Wind's Twelve Quarters の1991年版〕
おや、この星に知的生命はいないはずでは。ましてや、感情が存在するなど・・・?
ルグインの超硬派SF。難解ながらも、テーマ重すぎながらも、読ませる。読んだあとには、幸福感とはいえないが、なにか名状しがたいものに満たされた感じが襲う。不思議な小説。
傑作SF集として名高い The Wind's Twelve Quarters に収録(邦訳書『風の十二方位』)。ほかにもふれるべき作品がぎっしり。
タイトルはマーヴェルの有名な詩「内気な恋人へ」の一節を引く。<われらの植物愛は育つだろう。帝国よりも大きく、もっとゆるやかに>と来たもんだ。なに、「植物愛」? 〔原詩は実は「わが植物愛は・・・」。ルグインは「われらの」と変えた〕
舞台は遠未来の宇宙。正体不明の星へ調査隊がやってくる。その中に「超」の字がつく変人が混じる。みんなから嫌われる男、オズデン。かつては自閉症だったが、ある治療の結果、一見ふつうの人間になった。だが、ぜんぜん普通じゃなかった。周りの感情が分る特殊能力があったのだ。
感情が読まれるって誰でもいやだ。が、彼が隊員に起用されたのは、星の環境のセンサーとなることを期待されてのことだ。
この星には人間のような動物の反応はない。にもかかわらず、オズデンは感情の存在を感じとる。いったいこれは? そんなとき、彼が森のそばで倒れているのが発見される。この事件をめぐって隊じゅうが騒然とするなか、調整官ハイト・トミコ(日本人みたいな名前だが、じっさい日本的)は冷静に対処する。惑星じゅうにはりめぐらされた植物の根は脳神経細胞のようなものなのか・・・?
トミコの洞察にはしびれる。
'A single human brain can perceive pattern on the scale of stars and galaxies,' Tomiko said, 'and interpret it as Love.'
「ひとりの頭脳でも星や銀河のスケールで(展開する)パタンを認識しそれを愛と解釈することはできる」――これルグインの思想を代弁してるんじゃ。
この星には知的生命はいないはずでは?