伝統的かつ現代的。稀有なアルバム
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Eithne Ní Uallacháin: Bilingua (Gael Linn, 2014)
「クリスタルグラスのように澄んでいてこわれそうな声」の持ち主と評された故 Eithne Ní Uallacháin (1957-1999) のアルバム。かつて、バンド Lá Lugh での彼女の唄いぶりなどが好きだった人は間違いなく買いのCDだ。
これほどの水準のアルバムの音源がよく今まで出されずに来たなと不思議になるくらいの出来だ。彼女の歌い手としての魅力、音楽家としての鬼才ぶり、何より実験精神が旺盛でありながらアイルランドの伝統に深く根ざした音楽の吸引力は凄みがある。多くの歌い手が賛辞を寄せているのも頷ける。ある意味で時間を超えた作品だ。
録音が行われたのが1997年と1999年で、ミクシングは1999年に行われていた。そのときのレーベルとの契約上の問題でリリースが15年後となった。マスタリングが2014年に行われているので最新の音質である。フレットレス・ベースやアコースティック・ギターの音色、それにもちろん声の質が素晴らしい。
アルバムとしての作りは丁寧で、通常のCDジャケットのようなものでなく、CDサイズのハードカヴァ本のような手ざわりだ。解説も歌詞も完備している。音楽的にも編曲や演唱は完璧である。一聴するとコンテンポラリ・ミュージックのようだが、よく聴くと中身は完全に伝統音楽だ。
彼女の姉が現在も活躍する歌い手にして学者の Pádraigín Ní Uallacháin であることは有名だが、もうひとり姉妹イーダさんがいて、その方は2014年に来日した Keating 学者タイグ・オドゥーラーニャさんの奥様だ。
このアルバムで活躍するミュージシャンを少しだけ挙げると、彼女の夫の Gerry O'Connor はフィドルに専念しており、ギターを担当する Gille Le Bigot が素晴らしい。
本 CD は Gael Linn レーベルの直営ショップのほか Claddagh Records などで手に入る。