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何の能力も持たずに怪異を倒す、現代の伝奇譚シリーズの第1巻。書き下ろし


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葉山透『0能者ミナト』アスキーメディアワークス、2011)

 

 何の能力も持たないがゆえに「0能者」と呼ばれる青年、九条湊。霊力や法力を持たずにどうやって怪異を倒すのか。そこにこそ本作の面白みはある。

 本職の修験者や法力僧が投げ出すほどの難事件の解決を依頼され、彼が考え出す驚くべき手法。その冴えはまことにクールで痛快。

 古代的な怪異と現代的な科学論理との切り結びが新鮮である。怪異現象がとんでも系とみなされ否定し去られることなく、それはそれとして認めつつ、余計な感情や因縁に流されず、冷徹で合理的な思考を貫く。

 助手として巫女と能力者とを使いこなし、見事に難事件を解決するその手腕。それはスマートなものでなく、けれんみたっぷりで、かつ偽悪的。非常に魅力ある主人公である。

 彼の言葉を引こう。天才的な法力少年に対する言葉――

「おまえの欠点を教えてやる。才能におぼれて考えることをしないことだ」

凛とした巫女に対する言葉――

「ちなみにおまえの欠点はそこだ。優しく慰めることばかり考えて、大事なことを考えようとしない。優しくすれば解決するのか?」

 湊のこういう言葉にピンと来る人や、万葉集に出てくる梓弓に関心がある人にはおすすめ。