Tigh Mhíchíl

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『ヒマラヤ聖者の生活探求』の系譜を想わせる純真さを湛えた本


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ウラジーミル・メグレ『アナスタシア ~響きわたるシベリア杉 シリーズ1~』(チュラルスピリット、2012)

 

 本書には明白な転換点がある。シベリアのタイガの自然に溶けこんで暮らすアナスタシアに対し、ひとり草地に残された一歳のときになぜ餓死しなかったのかと問うと、こう答える。

 世界ははじめから、人間が何を食べようか、どこでそれを得ようかなどということに、思考のエネルギーを費やす必要がないように創られているの。
 すべてのものが人間の必要に応じて熟すようになっているから、人は呼吸をするように食べて、栄養など気にせず、もっと大切なことに意識を集中していればいい。
 創造主は、人間以外のものに食べ物の準備を任せたーー。人間が人間としての目的を果たせるように

ここまで、いったい何を読ませられるのかと思ってきた読者は、ここで深く得心する。少なくとも、モーセ五書(Pentateuch)を聖典と仰ぐ民は。あるいは、もしかすると、知識として知っている人も。それはちょうど、スティーヴンズの次の詩行を初めて目にしたときの感興にも似る。

I planted a jar in Tennessee,
And round it was, upon a hill.
It made the slovenly wilderness
Surround that hill.

壺を置くことで周りのぞんざいな野生の存在を従わしめる秩序が創生される。

 この一種の「通過儀礼」をへた読者は、以降の頁を何の苦もなく、賛嘆のまなざしで読み進めるだろう。

 本書への感想をアイルランド語で述べると、

Creid nó ná creid, tá an saol seo beo. [信じるにせよ信じないにせよ、ここに生きた生がある。]

 本書は、ロシア語の原書からの翻訳でなく、また市販の英語訳現行版(Dilya Publishing刊、Ringing Cedars刊)とも異なる、新たな英語訳改訂版を底本とすると、記されているが、その新しい英訳者が誰であるのかは不明である。