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ロシア・コネクションの深い闇と日本の特捜部


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月村了衛『機龍警察 暗黒市場』早川書房、2012)

 

 ルイナク(ロシア語で「市場」)は黒社会では武器専門のブラックマーケットのことだ。これが震災後の東北で開催される。取扱われるのは新型の機甲兵装(人間が搭乗する近接戦闘兵器)で、龍機兵(ドラグーン)ではないかとも噂される。その闇市場を舞台にロシア・コネクションの黒く太い枝が陰鬱な模様を描き出す小説。

 機甲兵装をもちいる警視庁特捜部の活躍をえがく機龍警察シリーズの第3弾。第1作は姿俊之警部、第2作はライザ・ラードナー警部に焦点があてられ、本作はユーリ・オズノフ警部にスポットがあたる。前作『機龍警察 自爆条項』(2011)は第33回日本SF大賞を受賞したが、本作も優るとも劣らないおもしろさがある。本作は『このミステリーがすごい!』2013年版で第3位になっている。

 機甲兵装がつかう武器でアンチ・マテリアル・ライフル(対物ライフル)というのがあり、これの威力がすさまじい。ふつうの警官や機動隊などが把持する拳銃などではまったく対抗できないくらいの破壊力を有する。かつては対戦車ライフルだった。大口径弾を使用する。

 こんなものを拳銃のように片手で使うのは人間の能力を増幅する機甲兵装みたいなものにしか無理である。それにも等級があり、古いほうから第一種、第二種、さらにその先の龍機兵とある。冒頭であげたルイナクでは第二種の最新鋭か龍機兵が売りに出るというので、黒社会の注目をあびるわけだ。

 本作ではユーリが警官としての誇りを捨てざるを得なくなり、表社会から転落して裏社会での過酷な試練をくぐりぬけ、日本でふたたび警官として龍機兵に搭乗するに至った経緯の全容が明らかになる。これで龍機兵の搭乗員三名の全員の背景が明らかになったことになるが、今後のこのシリーズの展開が楽しみだ。新しい型の国際犯罪と警察や外交の複雑なからみを緻密かつ重厚な文体で綴る月村作品には魅力がある。〔その後、第4弾として『機龍警察 未亡旅団』が2014年に出ている。〕