アイリシュ・コネクション全開――女戦士ライザのかげ
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月村了衛『機龍警察 自爆条項 (上)』(早川書房、2012)
機龍警察シリーズの第2弾。文庫化に際し上下巻に。上巻ではまだタイトル「自爆条項」の意味は不明である。
本書はライザが所属する警視庁特捜部がからむ事件の現在と、ライザの過去とが、交錯する形で語りが進む。
ライザは北アイルランド出身で、(小説の中で)日本が直面する大きな事案の主たるプレーヤのIRF(北アイルランドのテロ組織)にもと所属しており、いまはそこからの処刑命令を受けている立場にある。
なぜ、北アイルランドの普通の少女が対英抵抗組織に入ることになったのか。なぜ、警視庁特捜部の有人戦闘兵器を操る三人の傭兵の一人となる腕を身につけたのか。それらの謎のうち、北アイルランド時代の背景について、上巻では、特にIRFを率いる<詩人>キリアン・クインとの関わりを中心に、詳しく語られる。現在の部分では、日本での、機甲兵装(軍用有人兵器)どうしの闘いにおけるライザの描写は圧倒的な迫力がある。
北アイルランドの描写は主にライザの故郷であるベルファストにからむ。そこで中心になるのはフォールズ・ロード周辺で、そこを3回訪れた評者には、本書での説明には必ずしも全面的に首肯できない部分もあるが、北アイルランド紛争に不案内な日本の読者向けの叙述としては丁寧なものであると思う。なお、IRFという組織は知る限りでは実在しない(本書におけるフィクショナルな設定)。いづれにせよ、機甲兵装を用いる至近未来のテロ戦争を描くのが本警察小説である。
人物像が掘下げて描かれるライザ、および特捜部を指揮する沖津の対本省交渉で見せる懐の深さが印象的である。