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高2になる前に魔道士としての修行が始まった


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香月日輪『妖怪アパートの幽雅な日常2』講談社文庫、2009)

 

 語り手の稲葉夕士は高校1年生を終え、寮から妖怪アパート、寿荘に戻ることになる。

 本作の最初の5分の1くらいは前作をなぞるような感じで、ややだるい。「妖怪アパート」シリーズを初めて読む人はまた違う感想をいだくかもしれないけれど。シリーズ物はここのところの工夫がむずかしい。

 第2章「プチ・ヒエロゾイコン」になると、アパートの住人の古本屋が持ち込んだ「魔道書」が前面に出てきて、話は少し動き始める。タロー(タロット)の画集本(22枚の大アルカナ)の最後(22番目)の「0」の「愚者(フール)」が夜中に出てきて、夕士を「ご主人様」と呼ぶ。本の封印が解けて、夕士が本の中の22の妖魔どもの主人となったのだ。

 ある事件が起こり、夕士がピンチにおちいったときに、このフールが出てきて、はからずも妖魔どもの助けを借りて窮地を脱する。ところが、夕士にはまだ妖魔を使いこなすだけの能力がなく、消耗してしまう。そこで、アパートの住人の霊能力者、久賀秋音に魔道士としての基礎的な修行をつけてもらうことになる。

 という次第で、本書の春休みの間はいわば訓練期間にあたる。その意味ではやや平板な印象を受けるのはやむを得ない。ただ、魔書使い(本を使う魔道士)にからむところは興味深い。陰陽師が式鬼(しき)を使うように本を使うのだ。

 シリーズの第1作もそうだったが、やたらと旨そうな食い物が次から次へと出てくる。その噂をいつも聞かされていた夕士の親友、長谷泉貴がついにアパートにやってくるところも見どころだ。