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加島祥造(詩人としても著名)訳のポー詩集


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エドガー・アラン・ポー『ポー詩集―対訳』岩波文庫、1997)

 

 岩波の対訳詩集の中でも異色。通常は研究者としての解説などが附くが、本書の解説は詩人として感じたことを書く。翻訳や註釈より、この詩人がポーをどう読んだか知りたい場合に好適。

 ただし、大急ぎで付加える必要があるが、原詩を精密に読み解きたい、そのためには韻律や文法について、現在までの研究の成果を反映したような詳細な註も読みたい、という場合には、たぶん本書は不適である。

 本書で得られるのは、詩人加島祥造訳のポーの詩と、各詩に対する自由な感想であって、それ以上でもそれ以下でもない。

 だから、よいほうに働けば、詩人ならではの感性に裏打ちされた読みが味わえるし、よくないほうに働けば、語学的にもポー学の水準からいっても、あまりかんばしくないものしか得られないことになる。

 ひとつ、非常によい箇所がある。ポーに対する受容史にかかわることが「はじめに」の中に書いてある。ここに、W. B. イェーツの言葉がある。彼はポーを「古今東西を通じての偉大な抒情詩人」と言っているのだ。これは控えめに言っても驚くべき話だ。そういう目で訳者はポーに向かい合っている。