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ついに、サンジェルマン伯爵のねらいが明らかに


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ケルスティン・ギア『比類なき翠玉 (時間旅行者の系譜)』東京創元社、2013)

 

 ドイツ発の時間旅行者シリーズ三部作の第3巻。ついに、十二円環のエメラルド(翠玉)の位置を占めるサンジェルマン伯爵が、本当は何をねらっていたのかの全容が明らかになります。さらに、読者が気をもんできたグウェンドリンとギデオンの仲についても、今までのもやもやが晴れるような展開が期待できそうな雰囲気があります。

 なんといっても、すべての謎や陰謀やなにやかやが、すべて解決に向かうはずの巻なので、今までの読者は読むほかないでしょう。胸のすく展開が400ページ、たっぷり楽しめます。

 プロットの進行にかかわるところ以外でも、名脇役といってもいい、いろんな文学作品からの引用があり、その面でも楽しめます。たとえば、レフ・トルストイの長篇小説『アンナ・カレーニナ』。ここからの引用がなかなかいいのですが、物語の中ではこの本が意外な役割を果たします。

 それから、随所に出てくる米詩人エミリ・ディキンスンの詩。これは作者が本当にこの詩人が好きなことをうかがわせます。「”永遠”はたくさんの”今”から成り立っています。」は、まさにこの物語のためにあるような言葉です。'Forever – is composed of Nows –' (Johnson 番号 690) が原文。

 ほかに、いろいろな引用がありますが、なかでもこのシリーズの読者の心にいちばん響くのはパール・バックのつぎの言葉ではないでしょうか。「時を押しとどめることはできない。けれども愛のためには、ときとして時は止まる。」 時間旅行者たることを運命づけられた主人公たちの愛と苦悩がここに凝縮されているように感じます。