アイルランド語の i mbun について
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アイルランド語の表現で i mbun は大変よく出くわす。が、ピンと来にくい。
なにかに感動したときや強く心を動かされたときはアイルランド語でないと表現できないことがあるが、この i mbun は芯のところでつかまえたという気がなかなかしない。
それに、この表現はひょっとすると、使い方が少し変わってきているかもしれない。アイルランド語のオンライン・ジャーナルなどでマウスカーソルをもっていくと英訳が出るところがいくつかあるが、最近あっと驚くような英語をつけている例があった。そのへんは辞書には出ていない。生きたことばである。
bun は底の意である。英語で言えば base や bottom に当たる。が、i mbun + 属格に相当するような英語表現は知るかぎりではなく、英語の発想にも恐らくない。
i mbun + 属格は<〜の底にある>が原義と思うが、現実に現れる意味はそれからは遠くかけ離れている(ように見える)。
以下、FGB の13番の語義および用例について考察したことのメモ。
i mbun の語義は Attending to, engaged in, abiding by としている。底にあることがこの意になるのは事態の大もと、根もとに入る覚悟を示すからか。日本語の 「縁の下の力持ち」を連想させる。方向として top-down でなく bottom-up の発想か。
- Dul i mbun oibre, to set to work. 従事する状態に入る=とりかかる
- i mbun an tí/an linbh, attending to the house/the child 家/子ども の下に=世話をする [cf. 「仕える」]
- Duine a chur i mbun ruda, to put s.o. in charge of sth. 人を事の底に入れる=人に事を担当させる(託す) → 支えてくれ、任したぞ
- Cuir i mbun a ghnó é, set him about his business. 自分の仕事の下に入らせよ=仕事にとりかからせよ
- Fear i mbun a fhocail é, he is a man who keeps his word. 〔コピュラを補い〕自分のことばの下にある男だ=約束を守る男だ
- D'fhan sé i mbun a mháthar, he stayed to take care of his mother. 母親の下にとどまった=〔マザコンであったという意味でなく支えたの意で〕面倒を見続けた
- Fan i mbun na fírinne, abide by the truth. 真理の下にとどまれ=真理を守れ(固守せよ)
- Níl sé ina bhun sin, it is not confined to that. それの下にはない=それには限られぬ
- Beidh mé ina bhun duit, I shall be obliged to you for it. あなたに対しその下にいることになります=そのことでは感謝します
- Suí i mbun duine, to take advantage of s.o. (cf. teacht i dtír ar dhuine [to live at s.o.'s expense; to take advantage of s.o.; to make game of s.o.]) 人の下に座す=〔人に仕えるの意でなく人を犠牲にしての意で〕人をカモにする
- Bheith i mbun rud a dhéanamh, (i) to be engaged in doing sth. (ii) to intend to do sth.
最後の二つの例はまだ考察中である。もっと数多くの用例に当たらないと確かなことが言えない気がしている。だが、「世話をする」や「従事する」のいづれにも通底する日本語として<仕える>を憶えておくのもよいかもしれない。