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「大飢餓」後のアイルランド語


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 自明性が解体するような100万人の餓死体験(1845-49)後、アイルランドにおける国語、アイルランド語は劇的な変化をこうむる。
 その犠牲者100万人、及びその後の移民100万人は殆どがアイルランド語話者であり、その喪失によりアイルランドにおけるアイルランド語話者人口は激減する。アイルランドの英語化は反対に劇的に加速する。
 周知の通り、アイルランド文芸復興運動は、その前に戻ろうとした。
 しかし、時間は元に戻ることはあり得ない。「災害人類学」的視点に立つならば、新たな出来事の生成を目ざして歩み始める人々がいても全くおかしくない。
 そのような意識を有する文学者に、ジョイスに範をとったヒーニーがいる。支配者の言語、英語を逆手にとり、英語そのものを徹底的に解体することを通して、自らの言語としてゆく。それはことによると、「アイルランド(語)化された英語」となるかもしれない。
 この意識を恐らく共有するアイルランド語詩人には、アイルランド語の新たな活力が賦与される。ビディー・ジェンキンスン、ヌーァラ・ニ・ゴーナル。英語に訳せば、おそらく爆発するくらいの起爆力が言語に賦与される。
 賦活された、復活ではない、全く新しいアイルランド語。それを同時代の文化として味わえる僥倖
 明日から、四旬節に入る。復活のキリストは天的な体を帯びた。ビディーやヌーァラの目ざす新しい境地はどのようなものか。新しい肉体を備えたアイルランド語の切開く世界。ショーン・オ・リールダンが夢見たような世界が現実に訪れつつあるのかもしれない。