Tigh Mhíchíl

詩 音楽 アイルランド

記事一覧

バラとイバラ:アメリカのバラッド <追記>


[スポンサーリンク]

 新刊情報。あのグリール・マーカス(『ミステリー・トレイン』)が共著。テーマが興味深い。Amazon.co.jp でも予約可。

  • Sean Wilentz and Greil Marcus: The Rose & the Briar: Death, Love and Liberty in the American Ballad (W.W. Norton & Company)

 米国にやってきたバラッドという歌形式はアメリカに何をもたらしたか。各界の人がその問いに答える。アメリカのバラッドは一体アメリカについて何を物語るのかという疑問が根底にある。
 答えたのは、音楽家(Anna Domino of Snakefarm, Rennie Sparks of the Handsome Family, David Thomas of Pere Ubu)、小説家(Steve Erickson, Sharyn McCrumb, Joyce Carol Oates)、ヴィジュアル・アーティスト(R. Crumb, Jon Langford ―― むしろ Mekons や Waco Brothers のメンバーとしてか)、詩人(Paul Muldoon)、批評家や歴史家(Paul Berman, Cecil Brown, Stanley Crouch, Howard Hampton, Wendy Lesser, Dave Marsh, James Miller, Ann Powers, John Rockwell, Luc Sante, Sarah Vowell, Ed Ward, Eric Weisbard)。一人一人がこれはという一篇のバラッドを選び、それについて書いている。ただ答えるだけでなく、自分の選んだバラッドから何か芸術作品を生みだそうとする。つまり、単なるアンケート回答ではなく、一種の芸術活動である。だから、たとえば、あのロバート・クラムは <When You Go A Courtin'> についての漫画を書いているし、短篇小説を書いた人もあれば、エッセーを書いた人もある。
 この書は「ステージ」であり、その一つの「ショー」として、CD 版(Sony/Legacy)もリリースされている(9月)。CD 版の曲目は次の通り。

  1. Barbary Allen - Jean Ritchie
  2. Pretty Polly - The Coon Creek Girls
  3. Ommie Wise - G. B. Grayson
  4. Little Maggie - Snakefarm
  5. Frankie - Mississippi John Hurt
  6. Deliah's Gone - Koerner, Ray & Glover
  7. Wreck Of The Old 97 - John Mellencamp
  8. Dead Man's Curve - Jan & Dean
  9. Buddy Bolden's Blues (I Thought I Heard Buddy Bolden Say) - Jelly Roll Morton
  10. The Coo Coo Bird - Clarence Ashley
  11. Volver, Volver - Vincente Fernandez
  12. The Foggy Foggy Dew - Burl Ives
  13. Black, Brown And Beige, Part IV (COME SUNDAY) - Duke Ellington & His Orchestra, featuring Mahalia Jackson
  14. El Paso - Marty Robbins
  15. Trial Of Mary Maguire - Bobby Patterson
  16. Down From Dover - Dolly Parton
  17. Sail Away - Randy Newman
  18. Lily, Rosemary And The Jack Of Hearts - Bob Dylan
  19. Nebraska - Bruce Springsteen
  20. Blackwatertown - The Handsome Family

 この本と CD とのコラボレーションは、不思議な生命力を感じさせるバラッドなる形式について、いろいろなことを考えさせてくれそうな気がする。さらに、アメリカ的な心性や暴力とバラッドとの知られざる関係についても。
 ただ、多種多様なアプローチの集成という性質ゆえ、玉石混淆になっても、ある程度仕方ないかもしれない。ハードカヴァーにしてはそれほど高くないので、要らぬものには目を瞑ればよいけれど。

<追記>
 早くも「石」の部分の指摘があった。同書の最初の二つの文章(Dave Marsh と Ann Powers)はバラッド研究に対する勉強不足を露呈するだけのつまらないものとの感想が Mudcat にポストされた(Nerd さんによる11月20日の投稿)。