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山田正紀のデビュー作。言語学・神学にからむSF


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山田正紀『神狩り』(KADOKAWA / 角川書店、2002)

 

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山田正紀『神狩り』

 

山田正紀のデビュー作(1974)。第6回星雲賞日本短編部門を受賞している。

発表後30年を経て続編『神狩り2 リッパー』(2005)が発表されている。

表題通り、神を狩ろうとする無謀な企てを描くSF作品。主人公は機械翻訳を専門とする情報工学者・島津圭助。神戸で発掘された石室に文字らしきものが書かれているとの連絡を受け、調査におもむく。落盤事故が発生し、調査を依頼した作家は死ぬが島津は生き残る。

島津はCIAの及川五朗に拉致され秘密の研究所で石室の文字の解読作業に従事させられる。論理記号が二つしかない、ありえない言語であることを発見する。

研究室を出た島津は、神に恨みをもつ華僑・宗新義にクラブ理亜に連れて行かれる。そこで、神の存在を見ることができる理亜(ゆりあ)と、もと神学者の芳村老人に出会う。

彼らは協力して神を狩ろうとするが、それを妨害する霊感能力者アーサー・ジャクスンや、神自身との戦いが始まる。犠牲者の数が増えてゆく。

物語の発端でアイルランドにいるヴィトゲンシュタインが出てくる。「語りえぬことについては、沈黙しなくてはならない」とかつて自著に書いた彼は、その語りえぬことについて語らなければならない時を迎えていた。

この出だしはそれなりに重みをもつ。ところが、細部がいけない。神は細部に宿るというのに。たとえば、彼がいる場所について次のように書かれている。

アイルランド東海岸ギャルウェイ


ここを読んだだけで、アイルランドをよく知る人はがっくりするだろう。東でなく西海岸だし、この地名は英語ならゴールウェーだ。

それが地名ひとつのことならまだしも、言語学や神学に関する記述がほとんど信頼するに足りぬ。なんども途中で読むのをやめようと思った。

バーでの理亜の描写などにそれなりの魅力があるので最後まで読んだが、言語学・神学にからむSF作品としては粗すぎる。一部に高く評価する向きがあるのが私には理解しがたい。佐藤亜紀が「人類の調和や進歩のためならば、何百万人死んでもよい、というような、小松左京的粗野」と評したらしいが同感だ。

それでも、物語には奇妙に忘れがたいところがある。機会があれば続編を読むかもしれないとまで思う。

 

 

 

神狩り (ハヤカワ文庫JA)

神狩り (ハヤカワ文庫JA)