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有機的自問自答と無機的検証という二段階の論理による問題解決法を駆使して真相に近づく


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松岡圭祐『万能鑑定士Qの事件簿X』角川書店、2011

 

「万能鑑定士」凛田莉子を主人公とするシリーズの第10作。

時系列としてモナ・リザの謎を扱う『万能鑑定士Qの事件簿 IX』に続くが、物語の中心は『万能鑑定士Qの事件簿 II』の続篇。20歳の莉子がからむハイパー・インフレ事件の頃を回想する形をとる。読者としては少なくとも『万能鑑定士Qの事件簿 I』『万能鑑定士Qの事件簿 II』の二作の既読者を想定している。この二作はふたつでひとつの話になっている。

美容室チェーンの社印の鑑定を依頼された莉子が思わぬ事件に巻込まれる。その社印は美容室の経営権を奪う不当な契約書に押されていた。社長はまったく押した覚えがない。何者かが偽造したに違いないと社長は確信し裁判で争うが、精密な鑑定によって契約書の社印は本物と断定され、最高裁でも同じ結論が出る。

この社印の問題に取組むうちに莉子は恩人の瀬戸内から習った有機的自問自答と無機的検証という二段階の論理による問題解決法を駆使して真相に近づいてゆく。

この問題解決法は問題の要点をつかみ図式化する中で、問題のすばやい把握をおこなう。実際にさまざまなことに応用が効きそうな思考法で、これを読むだけでも本作の価値がある。

もうひとつ本作で得られるおもしろい「実用的」知識に、外見上区別がつきにくい、ヤクザとマル暴の警官との見分け方がある。莉子が社印問題に迫る中で豪華客船に乗込むのだが、そこにヤクザと警察がそれぞれ百人以上乗船しており、その二つの人間を見分けることが死活問題となるのだ。

実際に役立てられるような機会は訪れない方がよいが、これも、これだけで読む価値があると思えた知識だった。

ミステリとしてはいつもながら秀逸なできだ。